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「起きて、ルカ。ご飯できたよ」
時刻は、朝の6時30分頃。
奴隷なので、家事全般は俺の仕事である。
ちなみに言っておくが、俺は朝が強いタイプではない。
元の世界では、学校に着くギリギリの時間を逆算してギリギリまで寝て、
寝癖のまま登校して五分前に滑り込むタイプだった。
そんな俺が、いま異世界で朝6時台に起きている理由――
単純に、夜更かしする理由がないからだ。
想像してみてくれ。
テレビもなけりゃゲームもない。趣味もない。
やることと言えば、飯を作って掃除して、布団に入って寝るだけ。
現代っ子にとっては、苦行みたいな生活リズムだが――
それが、俺の異世界生活である。
気がつけば、夜の21時には寝てる毎日。
逆算して……だいたい9~10時間睡眠。
ちなみに、目覚まし時計はある。
ただし、音じゃなくて――魔法で起こされる。
設定するときに数字に魔力を込めると、
その人の魔力の流れを検知して、設定した時間に“やさしく”起こしてくれるという優れもの。
……正直、この目覚ましに関しては、元の世界に持って帰りたいくらいだ。
ていうか、目覚ましに関してだけは確実にこっちの世界のほうが進化してる!!
もっと頑張れ、元の世界!!
「のじゃ……」
すっごい眠そうに、髪をあり得ないくらいボサボサにしたルカが起きてきた。
相変わらず……すごいな。
「○ーパー○イヤ人みたい……」
「うぅ……めんどくさいのじゃ……なんでお主はいつも起きても髪がいつも通りなのじゃ?」
「うーん、考えたことなかったけど……髪質、かな?」
この髪、正直うっとうしいって思うことはある。
でも、何もしなくてもまとまるから手入れいらず。
だから切ろうとも思わないんだろうな。
「うー……お主だけズルいのじゃ……どうしてワシも同じように作ってくれなかったのか……」
「ははは、神様に文句言っても仕方ないよ」
もっとも、この身体にしたのは“女神”なんだけど。
「……神様に言ってるのじゃ」
「ど、どうして僕を見るの?」
「何でもないのじゃ。ふぁーあ……とりあえず髪を整えて、ご飯はいただくのじゃ」
「はーい」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
そして、モルノスクール――
「はぁ……」
「何をため息ついておるのじゃ」
俺たちは登校し、誰よりも早く教室についてしまった。
授業は8時から。7時30分までには着いておこうと思い、7時20分には教室に入っていた。
……これ、完全に社会人としての常識だよな。
この学校は年齢バラバラだけど、16歳未満の子が多い。
つまり――若い子たちは、こんなに早く来ない。
元の世界の大人の癖が、こんなところで出るとは思わなかった。
……いや、それよりも。
「昨日のアレだよ。あんな帰り方して、何も気にしてないほうがすごいって。むしろホラーだよ」
「ワシらが悪いわけではないのじゃ」
「いや……明らかに僕たちが震源なんですけど……」
そんな会話をしていたら、俺の隣の席の子がやってきた。
えっと……名前はたしか……
「あ、スヒマルさん。おはようございます」
「え!? あ、お、おはようございますっ」
声をかけると、少しびっくりした様子で返してくれたスヒマルちゃん。
そのまま、そそくさと自分の席に座ると――
寝たふりを始めた。
……え、なに?俺、そんなに話しかけづらかった?
「ふむ……話を戻すのじゃ」
「う、うん。そうだね」
戻せねーよ!?今の見てた!?見てたよね!?
思いっきり隣で寝たふりされてるんだけど!?
「どうなろうが、ワシたちの知ったことではないのじゃ。目的は、ここを卒業し、冒険者になること……それだけなのじゃ」
「…………」
ルカはそう言い放つと、つまらなそうに髪をいじり始めた。
たしかに、ルカの言ってることは間違ってない。
でも、それは“正解のひとつ”ってだけであって――
人間関係とか、コミュニケーションって、団体で動くにはやっぱり大事だと思うんだよね。
……って言ってる俺が、昨日あんな失態おおおおおおおおお!!
……うん、取りあえず、考える方向としては合ってるはず。
そして、特に何もなく時間は過ぎていき、8時の10分前――生徒たちが少しずつ教室に入ってきた。
最初に入ってきたのは、四人組の男の子パーティー。
見た感じ、歳は14くらいだろうか。けっこう年下だ。
「あ、アオイさん」
俺に気づいた彼らが、四人でこっちにやってくる。
……また何か言われるのかと身構えていたら――
「昨日はごめんなさい。いきなりみんなで押しかけたら、怖かったよね」
「へ?」
意外なことに、全員がそろって謝ってきた。
え、えと?
「僕ら、あのあと反省したんだ。これから先もあるし、ゆっくり知っていってもらえたら嬉しいなって」
「取りあえずは、僕たち《ファイアーヒューマンドロップ》をよろしく!」
そう言って、ファイアーヒューマンドロップの人が手を差し出してくる。
俺はちょっと戸惑いながらも、笑顔で手を握り返した。
「う、うん!よろしく!かっこいい名前だね!」
「ほんとにそう思いますか!」
「よっしゃー!!昨日みんなで考えたかいがあったぞー!」
「アオイさんに褒められた!うれしいぃぃ!」
「ほら!騒がないで!席で今後の作戦会議するよ!」
名前をちょっと褒めただけで、この反応……大げさすぎない?
でも――ふふっ……悪い気はしないな。
「ほら、言ったじゃろ?何も心配することはないのじゃ」
ルカはドヤッ!ほらドヤッ♪って顔で、こっちを見てくる。
……まぁ、今回はたしかにその通りだった。
「ほんと♪そうみたいだね」
次に入ってきたのは、女の子5人組。
多分、みんな20歳くらいで、お化粧をしてるからか綺麗に見える。
その人たちも、こちらにやってきた。
「二人とも、おはよう♪」
「おはようございます」
「うむ」
「昨日は怖がらせちゃったね?今度から気をつけるから、よかったら――休みとか空いてたら一緒にお買い物行こ?私たち《ストロングウーマン》をよろしくね?」
ストロングウーマン。
直訳で“強い女”……かな?
「うん!ぜひ予定が空いてたらよろしくね!」
「ふふ、ほら、みんないこ?」
そう言って、5人組はぞろぞろと席に戻っていった。
そして――
「アオイ殿!昨日はかたじけなかったでござる!」
昨日、鼻血で倒れたあの人を連れた四人組の男の子たちが来た。
ちなみに全員、こっちをまともに見ずにチラチラ視線を泳がせながら話してる。
歳は……たぶんさっきのグループと同じく、14歳くらいだろう。
「し、失礼ながら!わ、我ら《アルティメット》は、アオイ殿とルカ殿の――大人の刺激が強すぎたみたいでござる!す、少しずつ慣れていくので、これならよろしくでござる!」
「う、うん。よろしくね?」
「すごい語尾なのじゃ……」
(ルカが言えないよ……)
握手を求められたので、応じると――
「っ!」
案の定、その子の鼻から、**つぅっ……**と血が垂れてきた。
「し、ししし失礼ッ!皆、撤退撤退!」
「御意!」
「後方へ!」
「わあああああ!」
そうして、彼らは騒がしく撤退していった。
……また、個性が強いなぁ……。
となると……最後は――
「みんな!おはよう!いい朝だな!共に二年間過ごす仲だ!《マッスルファイターズ》をよろしく!」
昨日、ルカに触られたあの“筋肉の塊たち”が、教室に入った瞬間、全力で挨拶してきた。
歳は……20後半?いや30かも?ていうか、なんで冒険者じゃないのこの人たち。
そして、四人そろって俺たちの席に向かってきた。
「やぁ!二人とも!これを見てくれ!」
「え?」
「のじゃ?」
そう言うなり、彼らは制服の上着を脱ぎ――
四人とも、上半身裸に。
素晴らしく鍛え上げられた筋肉がズラリと並ぶ。
…………はい?
「この学校で何かあったら、俺たちに言ってくれ!この筋肉を見よ!何者にも負けぬ!はぁっ、はぁっ!」
や、やばい。この人たち、なんか……息も荒くなってきた!?
「た、たくましい筋肉だね!たのもしいよ!ね!ルカ!」
「そ、そうなのじゃ。た、頼もしいのじゃ……」
ほら、あのルカですら思わず引いてるって、どんだけよ……。
何か続きが来そうだったけど、そのタイミングで先生が到着して教室に声が響く。
「な、何やってるんですか!早く席につきなさい!」
「うむ!まだ話したかったが!また後で!」
「は、はい……」
こうして、昨日把握しきれなかったクラスの顔ぶれを、なんとなくだけど理解することができた。
「では、まず、教科書を配るのでそれから__」
そして、俺の異世界に来て初めての授業がスタートした!
《モルノスクール公式教本・冒険者基礎学 第1章》
冒険者とは、命を賭して未知に挑む者の総称である。
この世界は広大であり、いまだ踏破されていない土地は無数に存在する。
国に認められた冒険者は【開拓】を行い、領地を広げ、国に栄誉をもたらす。
その功績は歴史に記され、称えられる。
本書を手にする者の中から、やがて新たな地を切り拓く者が現れることを願う。
――第1章:冒険者の使命より