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理穂は、唇を微かに震わせながら、敵意の眼差しを恵菜に向けている。
「勇人センパイ……離婚した直後に、『やっぱり俺は恵菜を愛している。理穂との関係は終わりにしたい』って言ってきたんですっ……!」
今にも泣きそうに瞳を潤ませて、恵菜に訴える理穂だけど、何となく芝居じみた後輩に、恵菜は冷ややかな視線を送った。
「勘違いしないで欲しいんだけど、私は早瀬に対して愛情もないし、自分から会いたいなんて、全く思わない。向こうが勝手に私の職場を探し当てて待ち伏せしてるだけ」
怒りを通り越して、思い切り呆れ返った恵菜は、ハァッとため息を漏らした。
「ハッキリ言って、早瀬に所構わず待ち伏せされるのも、復縁したいって言ってくるのも、迷惑でしかない。恐らくだけど、早瀬が復縁したいって言い出したのは、私が痩せたから。早瀬家の人間は、世間体とか外見を気にする人だからね」
すっかり冷めたコーヒーを、恵菜はひと口含み、理穂を見据える。
「それに、何で不倫された私が汐田さんに、こんな事を言われなきゃならないの? 本来なら、あなたは妻だった私から訴えられても、おかしくないんだけど」
恵菜が、小動物化した理穂を凝視する。
「そっ……それは…………その……」
理穂が狼狽しながら、しどろもどろに口を窄ませ、大きな瞳をキョロキョロと泳がせた。
「結婚してた頃、探偵を雇って、不倫していた事実を早瀬と汐田さんに突き付けようか、とも考えた。でもバカバカしくなって思い止まったけど」
彼女は、ムカムカした気持ちを流すように、残りのコーヒーを一気に飲み干した。
「汐田さんが、高校時代から早瀬の事を好きだったのは、私も知ってる。夏の甲子園の予選大会で、私に見せ付けるように、早瀬に甲斐甲斐しくお世話していたし。今の早瀬の再婚相手として、あなたは相応しいんじゃない?」
恵菜の言う事に余裕を感じ取ったのか、理穂は顔を歪ませ、身体を小刻みに震わせている。
「私と早瀬は離婚して半年以上経つし、あなたが早瀬と関係を続けていても、もう私には関係のない事だよ。寧ろ、独身に戻った早瀬を射止めるチャンスだと思うけど」
恵菜は立ち上がり、バッグを肩に掛け、帰り支度を始めた。
「…………んで? どっ……どう…………して…………」
理穂が、消え入りそうな掠れ声で、ボソリと言葉を零している。
「もう話は済んだみたいだから、帰るね。コーヒー代は私が出すから。それに、あなたとは…………もう一生関わりたくないから。じゃあね。元気で」
「アンタが…………アンタがっ……!」
彼女が歩き出した瞬間、理穂は憎悪に満ちた面差しで恵菜を睨み付けた。