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エレベーターを降りて左に向かって突き当たりの部屋が、純の部屋だ。
この部屋に、女を招き入れた事は一度もない。
恵菜が初めてである。
彼は、キーを差し込み解錠すると、『汚いけど、どうぞ』と言いながらドアを開け、恵菜に中へ入るように促した。
「お……お邪魔……します……」
「左側の手前のドアが、洗面所とバスルームだから、まずは手洗いとうがいをするといい。突き当たりのドアが、リビングだから」
「はい……失礼……します……」
純は、リビングに足を向け、ルームライトを点けた後、冷蔵庫を開けた。
(ついに…………彼女を家に招いちまった……。ヤベェ……何か緊張するし……)
彼は気持ちを宥めながら、食材をひとつひとつ、しまっていると、手洗いとうがいを済ませた恵菜が、様子を伺うようにリビングに入ってきた。
「俺も手洗いとうがいをしてくるから、ソファーに座って待ってて」
「はい」
綺麗な歯並びをチラッと見せ、彼は洗面所へ向かった。
純がリビングへ戻ってくると、恵菜はドアの横に佇んだまま。
「恵菜さん、ソファーに座っていれば良かったのに……」
彼は、ゆっくりと恵菜に近付く。
「そう…………です……ね……」
彼女も緊張しているのか、ぎこちなく笑みを滲ませた。
リビングには森閑とした空気に包まれ、純と恵菜は向かい合う。
彼は彼女を見下ろしているが、恵菜は、一人暮らしの男性の部屋にいるのが恥ずかしいのか、まつ毛を伏せていた。
(今なら…………俺の……気持ちを……)
純は、細く括(くび)れた恵菜の腰を引き寄せ、腕の中に閉じ込めると、華奢な身体が小さく跳ねる。
ひとしきり、彼女の柔らかな身体を抱きしめながら、恵菜の髪に触れ続けた。
「恵菜さん…………俺……」
腕の力を緩めた後、自然に絡み合う、二つの眼差し。
エキゾチックな彼女の顔立ちは、切なげに潤んでいるように見え、彼は唇を微かに開かせる。
「俺…………恵菜さんの事が…………好きだ……」
出会ってからの真剣な想いを、純は恵菜へ静かに告げた。