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「恵菜。いい人に巡り逢えて…………良かったな」
イケおじの彼女の父が、目を細めながら恵菜に声を掛ける。
「恵菜。素敵な出会いの機会を与えてくれた奈美ちゃんに、感謝だね」
彼女の母も、嬉しさを纏わせた声音で、恵菜に微笑んだ。
「谷岡くん。気が早い事を言うようで申し訳ないが…………恵菜の事、よろしくお願いします」
彼女の父が純に向かって頭を下げると、それに倣い、恵菜の母も深々と一礼する。
「ありがとうございます。恵菜さんの事…………大切にします。万が一、元家族の事でトラブルがあったら、できる限り、私が彼女を守ります」
「お父さん、お母さん。ありがとう……」
純と恵菜も、揃って両親にお辞儀をする。
「あら! 何だかんだ言って、もうすぐ夕方なのね。谷岡くん、お夕飯食べるでしょ?」
壁に掛かっている時計を見やりながら、立ち上がった彼女の母が顔を綻ばせる。
「え? いいんですか!?」
唐突な提案に、純は声がひっくり返りそうになってしまった。
「ああ。ぜひ食べていって下さい。恵菜はもしかしたら、谷岡くんと二人っきりになりたいのかもしれないが……」
長めの髪を掻き上げながら、ニヤッと笑う恵菜の父は、お茶目な部分もあるらしい。
「もうお父さん! 恥ずかしいからやめてよっ……!」
恵菜は椅子から立ち上がると、逃げるようにキッチンへ行ってしまった。
恵菜の父と二人きりになってしまった純は、何を話そうか、と頭の中をフル回転させて話題を探す。
「……谷岡くんも、何となく分かっているかもしれないが、恵菜は…………」
テーブルの上に置いてある湯呑みに視線を送っていると、彼女の父が、徐に口火を切った。
「あの子は自分の気持ちを、良くも悪くも口に出さずに、秘めておく所があるんですよ。けど、秘めている分、思いは熱くてね……」
感慨深そうに、窓の外に視線を向ける、恵菜の父。
「自分の気持ちを、うまく言葉で言い表せない、というか、口下手な所もあるせいか、人から誤解されやすい部分もあって、学生の頃は、交友関係で悩んだ事もあったみたいなんだ」
彼女の父が、ゆっくりと純に眼差しを向けた。
「でも、恵菜が谷岡くんの事を大好きだからって、しっかり言葉にした時、僕は嬉しかった。恵菜をいい方向に導いてくれる人に出会えたんだな、ってね」