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ー希空sideー
20分ほどお湯に浸かり、のぼせてきたので脱衣所へ出る。すると、洗濯機が回っていて自分の服の代わりにあの人が持ってきたであろう服が置かれていた。私はそれを着て、居間へ向かった。
居間へ行くとあの人はいなかった。上にいるのか、それとも個室の方にいるのだろうか。気になりはしたが、探す必要性もないと思いソファへ座る。そして、考えた。
もし自分が本当に捨てられたのだとしたら、これからどうするべきなのだろう。まだ中学2年だ。バイトもできないし、保護施設へ送られるのだろうか。それとも、あの親戚の家へ行かなければならないのだろうか。あの親戚の家は最悪だ。自分を罵り、拒絶し、人間であることを許さなかった。あの家へ行くのなら私は喜んで死を受け入れるだろう。
少しすると、階段を降りてくる音が聞こえた。あの人が2階から戻ってきたのだろう。電話をしているのか、微かに話し声が聞こえた。
「はい、よろしくお願いします。失礼します」
電話を切る音と同時に襖が開かれた。私がここにいるとは思わなかったのか、私と目が合った人は丸い目をさらに見開いた。そして、わずかにスマホを持っている腕を後ろへ引いた。
「希空さん、もう上がったの?温まった?」
何となく、何も言わなかった。一気に2個も質問されたら少し困る。この人はそういう所がある。やめた方がいい。
「お腹すいてない?」
「空いてない」
これ以上何も言わなかったら質問攻めされそうだったので、とりあえず答えておいた。本当は空いている。お昼ご飯が今日は少なかったから。
「そっか。あのね、さっきご家族に連絡したんだけど繋がらなくて」
そりゃそうだ。捨てたんだから。
「希空さんはどうしたい?」
「…え?」
まさかの質問に思わず声が出た。反応してしまった。
「今警察の人に相談したら、本来は警察が保護してご家族や親戚の人と連絡を取るんだけど、嵐が止むまでここにいてくれって頼まれて。一晩はここにいるんだけど、その後」
その後なんて、警察に保護してもらうに決まってる。そう思って続きを待った。少し期待してしまっている自分がバカバカしかった。
「警察に保護してもらうか、私の家に来るか。どっちがいいかな?」
自分はもう、期待しない。信用もしない。それなのに…。
「あなたの幸せをサポートしたいの」
この人は、自分が不幸になることを許さないんだ。
ーしおりsideー
こんなことを言ってしまったが、少し図々しかっただろうか。もしかして不審者と思われたか。
自分の発言が今になってやばい事だと気づいて希空さんを見た。これでもし不愉快な顔をされていたら私は人として終わり…。
「それ…は、」
絞り出した声はか細く、表情は苦しいものだった。自分の心の声がよくわかってないのだろう。混乱してしまっていた。
「も、もちろん警察の人に許可を取らないとだけどね!?誘拐になっちゃうし… 」
苦し紛れの補足をしてもう一度希空さんの顔を見た。何か決心が着いたのか、その表情は明るいものだった。
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「もういいです」
初めて見せた笑顔。でも、その表情とは裏腹に、言葉は重く、暗かった。
もういいです、という意味がわからなかった。自分にはもう構うなということなのか、自分の人生に対してもういいと言ったのか、わからずにいると、希空さんは続けた。
「家族と連絡が繋がらなかったって嘘ですよね。あの人たちはあなたに自分を任せたはず 」
図星だ。希空さんの家族からは全てを淡々と説明された。この子は全部わかっていたんだ。
連絡が繋がらなかった、なんて酷い嘘を言ってしまった自分を責める。
「うん。ごめんね、嘘なんかついて」
「もう、いいんです。きっと自分は…生まれるべき人間じゃなかった。だから」
思わず手で希空さんの口を塞いだ。
「だめ。その続きは、言わせない。絶対に」
希空さんは何も言わないし、何もしなかった。
「お願い、そんなこと言わないで。もう…失いたくないから」
その日の夜は嵐が止むことはなかった