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「…………」
薄闇の中、木の枝の上でヴァロフェスは目を覚ました。
彼の動きに驚いたのか、近くで眠っていた小鳥達が騒がしく飛び立つ。
「よお、お目覚めかい? ……もう、朝だぜ」
頭上の木の枝から、底意地の悪そうな声が聞こえた。
「結局、俺一人で見張ってやったんだ。感謝しろよな」
ヴァロフェスが顔をあげると、そこには一体の木偶人形が、木の枝に、背中を引っかけられて吊るされていた。
「なあ、ヴァロフェス。一つ聞かせろよ」
人形は吊るされたまま、両目をクルクルと回す。
「イルマって誰のことよ? ……昔の女か?」
けけけっ、と下卑た声で笑い立てる。
それを無視して、ヴァロフェスは胸元に手を当てた。
しかし――、
「…………?」
指先が空しく宙を掻いた。
……ない。
この十年間、肌身放さず持ち歩いていたものがそこにはなかった。
ヴァロフェスは微かに口元を歪ませていた。
その眼下では、ゆっくり夜が明けてゆく村の姿があった。
宝石のように鮮やかな緑の丘陵地帯に朝日が差し込んでいる。
農家からは鶏の鳴き声が聞こえ、羊の群れが放牧されるのが見える。
起床したばかりの住人達の息遣いや話し声が、風に乗って、微かに聞こえてくる。
「なぁ、本当にこの村にいるのかよ? ……アレがさ」
枝に吊るされたまま、木偶人形――、オルタンが言った。
「俺様にゃ、どこにでもある、フツーの村にしか見えねえけどな」
「いや、間違いない」
村を凝視したまま、ヴァロフェスは言った。
「村全体に死臭が漂っている。――《叫ぶ者》特有の腐臭がな」
「ふーん。臭い、ねぇ……」
穴のない鼻をヒクヒクさせ、オルタン。
「ま、どのみち俺には関係ないけどな。死なない程度に頑張ってくれや、兄弟」
「無用な心配だ」
ふっ、とヴァロフェスの口元に浮かんだのは自嘲の微笑み。
「やつらと同じく――、私もまた、すでに死人だからな」
#貴種漂流譚