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#勧善懲悪
#勧善懲悪
翌日の昼、スレンは淡い灰色の上着に眼鏡を合わせ、上品な仲介人みたいな姿で戻ってきた。どう見ても昨日のスレンとは別人だ。
「取れたよ」
椅子へ座るなり、彼女は言った。
「和菓子屋の娘さんと、取引先の息子さん。両家とも、もっと利益の出る相手と組みたい」
「恋より売上ってこと?」
エリアの声が低くなる。
「そう。で、今好き合ってる二人を引き離すには、片方に別の恋人がいるって形にしたい」
カレルがうつむく。
「ひどい」
ピットマンが机をたたきそうになって、キオノフに紙コップを渡された。
「たたく前に持って」
「今それ癖なの?」
「うん」
ズジが資料を追う。
「親同士だけじゃないね。仲介してる業者がいる」
マイナが別の紙を出した。
「眩しい箱の関連会社。説明会の出店者名簿にも入ってる」
「恋まで再開発の材料にする気か」
サペの声がかすかに冷える。
エリアは窓の外を見た。雨庭商店街の狭い道を、買い物袋を下げた人たちが通っていく。こんな町の小さな恋まで、数字に変えられるのかと思うと、胃の奥が重くなった。
「本人たちは会えてるの?」
エリアが聞く。
「最近はほとんど」
カレルが答えた。
「連絡先も変えさせられたみたいで……私が間に立ってる形にされた」
ジュレイが腕を組む。
「意図的に連絡経路を絞ってる。誤解を育てるやり方だ」
「それ、恋じゃなくて監禁の手前だよ」
ズジが吐き捨てる。
サペは、昔の自分を少しだけ思い出していた。言えなかった言葉ひとつで、関係が壊れることがある。確かめる前に離れたら、何年も戻れないこともある。
だから余計に腹が立つ。
「止めよう」
サペが言う。
「カレル一人を壁にされる前に」
カレルは目を見開いた。
「でも、私が途中でやめたら、余計ややこしく」
「ややこしくしたのはあんたじゃない」
エリアが即座に返す。
「恋を並べ替えて、店まで一緒に売ろうとしてる連中」
その日の夕方、ズジは古い掲示板の投稿を洗っていた。恋愛相談が集まる匿名掲示板の、数年前の書き込みだ。
突然、彼女の指が止まる。
画面の中央に、ひどく乾いた一文があった。
誰も幸せにならない恋は、いちばん高く売れる。
部屋の空気が、少しだけ冷えた。