次の日、良輔は会社に向かう電車の中から絵里奈へメッセージを送った。
【うちのポストに変な写真を入れただろう? なぜあんな事をするんだ!】
するとすぐに返信が来る。
【なんの話? 私は何もしていないわよ!】
(あいつ、とぼけているな…)
【とにかく、凪子にお前との事が見つかったら俺達は会社にいられなくなるかもしれないんだぞ! 今後二度と変な事はするな
よ! じゃないと俺はもうお前には会わないからな!】
【酷い! 私の事を信じてくれないの? 私何もやってないわよ。それにあなただってズルいじゃない! 奥さんにはあんなに
高価な指輪を贈っておいて私にはいつも安物ばっかり! 今度私にも指輪を買ってよ! じゃないと私奥さんに全部喋っちゃう
わよ!】
良輔は絵里奈が何の事を言っているのかさっぱり分からなかった。
(俺が凪子に高価な指輪を買った? 何言ってんだ?)
良輔はムッとした表情のまま、すぐに返信する。
【何の事を言っているのかさっぱりわからないよ! とにかく二度とあんな真似はするなよ! じゃないと本当にお前とはもう
二度と会わないからな!】
良輔はぴしゃりとそう返信するとメッセージアプリを閉じる。
その後もメッセージが立て続けに届いていたが、良輔は一切それを無視した。
その日、凪子は信也の事務所を訪ねていた。
新ブランドの方は具体的に動き始めている。
今日は信也のオフィスで、前回信也から手直ししてもらったデザイン画の最終チェックをしてもらっていた。
信也が目を通している間、手持ち無沙汰だった凪子は本棚の本を手に取り見ている。
そこへアシスタントの高田がカフェオレを持って来てくれた。
「高田ちゃんサンキュー! ちゃんとカフェオレにしてくれてありがとう!」
「凪子さんの好みは把握していますから! それに今日も差し入れありがとうございました」
甘党男子の高田は嬉しそうに言うと、一礼をしてオフィスを出て行った。
凪子は本を棚へ戻すと、ソファーに座ってカフェオレを一口飲む。そしてホッと息を吐いた。
そのタイミングで、信也が声をかけた。
「で、その後の進捗状況は?」
「あっ、今店舗の方の具体的なパースデザインが上がって来てて…」
「そっちじゃなくて、個人的な方!」
信也は凪子の声を遮るように言った。
「あ、なんだ、そっちか!」
「で、どうなった?」
再度聞かれたので、凪子は信也にこれまでの事を話した。
弁護士事務所に行った時の事、
夫の裸の写真がポストへ入っていた事、
とりあえず写真は弁護士事務所へ預け、その写真のコピーをまたポストへ戻して夫に気づかせた事、
夫の同期が、社内で夫と愛人がセックスしている場面に遭遇しこっそり撮った写真を凪子へ渡してくれた事等を話した。
もちろん、良輔と絵里奈のメッセージの内容も詳細に話した。
それを全て聞いた信也は、
「救いようがねぇな……」
同じ男として呆れてものが言えないといった様子だった。
「で、今後の予定は?」
「『なつみんブログ』によると、そろそろ引っ越し先を探した方がいいみたい。だから今度の土曜に物件を見に行くわ」
「そっか。だったら俺も一緒に行くよ」
「大丈夫よぉ。物件探しくらい一人で出来るわ!」
「いや、そうはいかないよ。愛人が自宅のポストまで変な写真を持ってくるくらいなんだから、ちゃんとセキュリティのしっか
りした所を選ばないと! お前そういう肝心な所が抜けているから心配なんだよ!」
「ひどーい! ストレートにズバリ言う事ないんじゃない? せめてもうちょっとオブラートに包んでよー! まぁでも着いて
来てくれるっていうんなら甘えちゃおうかな…」
凪子は正直一人での物件探しは不安だったので、信也の申し出に感謝した。
「昼飯まだだろう? その辺に食いに行くか」
「わっ、ラッキー! ちょっと期待してた」
「ハハッ、げんきんな奴だな」
信也は笑いながら言うと、スマホと財布を手にして部屋を出た。
凪子もそれに続く。
信也は高田に、
「凪子とメシ行って来るわ!」
「行ってらっしゃい!」
高田は笑顔で二人を見送る。
「行って来まーす!」
凪子は笑顔で高田に手を振ると、信也の後に続き事務所を出た。
そんな二人を、冷たい視線でじっと見つめている女性がいた。
彼女の名は荻野佐紀、27歳。
佐紀は信也のデザイン事務所に今年入って来たばかりの新人だ。
佐紀は美人でスタイルが良く、モデルとしても通用しそうな容姿だ。
佐紀が事務所に入って来た時は、男性スタッフ達が一斉に喜んだほどだ。
佐紀は信也に憧れてこの事務所へ来た。
それはもちろんデザイナーとしての信也に憧れてだったが、毎日信也を間近で見ているうちに異性としての信也に興味を持つよ
うになった。
そんな信也の元を度々訪れる凪子の事を、佐紀はあまりよく思っていない。
なぜなら、二人はとても親密そうだからだ。
それは仕事上だけでなく、
プライベートでもかなり親しい間柄だと知り、余計に気に入らない。
事務所で信也と会うだけならまだしも、凪子は四階にある信也の自宅へ自由に出入りしている。
スタッフである佐紀でさえ入った事がない自宅へだ。
凪子の左手の薬指を見ると、結婚指輪と高価なルビーの指輪が、二連にはめられていた。
(既婚者なのに、図々しいわ!)
佐紀は悶々とした気持ちを抱えたまま仕事を続けた。
コメント
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新人佐紀は知らないけど信也さんと凪子さんの長い歴史の上に今があって厚い信頼関係が気づかれてるのよ。 そこに割り込もうとしても2人の信頼の鉄壁で跳ね返されるだけだと思うけどね〜🤪 それより信也さんも話してたように彼の事を気づかれないようにしないと,凪子さんに火の粉が飛んでくるから要注意ね‼️凪子さん⚠️⚠️