テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
とある部屋。
「があがが……!! 薬ぃ、薬ィ! よこせぇ!」
手足を拘束された鈴谷が金切り声を上げていた。
目は血走り、口からは大量のよだれが出ている。その恐ろしい姿は、彼女が使用していた麻薬の依存制の強さを物語っていた。
そこへ、扉を開けて誰かが入ってくる。鳳崎と深瀬だ。
「……すまん、待たせたな鈴谷」
彼らはそう言いながら彼女の拘束道具を外していく。全て外し終えた途端、彼女は奇声をあげ、頭を振りながら自室へと走っていった。
「……なんちゅう姿や」
思わず冷や汗をかく鳳崎。
鈴谷の部屋。
大きな音を立てて扉が開いた。そして、鈴谷が駆け込んでくる。
「うるうるうるうる……!!」
謎の声をあげる彼女が向かったのは、大きめのサイズの棚。この中には、彼女が買っておいた麻薬が入っている。
彼女はそこから注射器を取り出す。 そして、迷わずそれを腕に刺す。
「はああぁ……しあわ……あれ?」
普段なら、中の液体が身体に入った途端、途轍もない高揚感に溢れる。しかし、彼女はそれを感じなかった。それどころか、どこか不快感が増したのだ。
「あれ……あれあれあれあれ!? なんでなんででででで!?」
「そりゃ中身違うからな」
声が聞こえたほうを向くと、そこには先程の二人がいた。
「ど、どうどうどういうこと!? 中身ちがががう……って」
「全て解毒剤にさせてもろたで。すまんな」
次の瞬間、鬼の形相と化した鈴谷が鳳崎に向かってくる。
「ちょ、おい」
止めようと深瀬が前に出てくる。しかし、難なくそれを突き飛ばすと鳳崎の胸ぐらに掴みかかった。
「何勝手なことしてくれんのさ! そんなこと望んでないんだけど!」
だが、彼は表情を変えることなく質問を飛ばす。
「お前に聞きたいことがある。なんでヤクなんか使うねん」
「……ずっと幸せでいたいからだよ! 暗かったら、死んだ妹に顔向けできないから!」
妹、という単語を口にした時、彼女の顔がもっと強張ったように見えた。
「そんなもんで幸せになって、妹さんは喜ぶんか?」
それを聞いた鈴谷が、彼の顔を思いっきり殴った。彼の頬に赤く傷がついた。
「なにしとんじゃあ!」
深瀬が叫び鈴谷に掴みかかろうとするが、鳳崎は目線でそれを静止した。
「お前に何がわかるんだよ! 大切な人を失った悲しみが! わかったら早く薬返せよ!」
バシン!
乾いた音が響いた。鈴谷が赤くなった頬を抑えている。鳳崎が平手打ちしたのだ。
「いい加減にせえ」
そして、彼は鈴谷の顔を覗き込む。
「確かに、俺は大切な人を失ったこともあらへんし、そもそも失いたくもない。でも、そんなことが起こったりしたら絶対に悲しい」
その時、彼の顔が真剣そのものになった。
「せやけどな……ヤクで幸せになったところで、死んだ人は安心するどころか、逆にもっと悲しくなるんや。俺だって、俺が死んだことで深瀬がヤクなんかに手ぇ出したら、めっちゃ悲しくなるわ」
そして、彼は最後にこう言った。
「もしあの世の妹さんを安心させたいんやらな、その悲しみを自分自身の力で乗り越えんとあかんのや! そして、妹さんが見たかった平和な世界を作ることが、お前にできることやろ!」
その言葉を聞き終わった鈴谷は、しばらく固まったあと、涙を流しはじめた。
「う……あ……熊野……私……私……!」
そんな彼女を、鳳崎は優しく抱きしめた。
「俺らも協力する。妹さんを安心させてやろうな」
そんな彼を見た深瀬も泣いていた。
「鳳崎さん……なんてええ人なんや……」
部屋の中には、泣き声が響き渡っていた……。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!