テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
気付くと、圭は腕組みをしつつ、瞳を閉じて和風の旋律に聴き入っていた。
クリエイターHanaが、何に対して終わったと感じ、この楽曲を作ったのかは分からない。
だが彼は、鼓膜を揺さぶり続けるメロディに、現状の自分と重ね合わせていた。
婚約破棄、元恋人だった浮気相手との別れ。
さらには、『旅に出ろ』の名目で副社長の座から引きずり落とされ、異世界と思っているDTM事業部への異動。
圭は曲を聴きながら、終盤の一番の盛り上がる部分は、諦めきれない、諦めたくない何かが、止めどなく溢れているように感じてならない。
「俺の人生で……一番のどん底……」
やがて、静かな後奏へ曲は繋がり、儚い音色の和音で曲が締め括られると、彼は、ゆっくりと瞼を開く。
「パソコンで作った曲は…………侮れないって事……なのか……」
彼は、ウインドウを閉じてパソコンの電源を落とすと、寝室に足を向け、ベッドに身を預ける。
(明日……Hanaに、さっそくコンタクトを取ってみるか。それにしても、今日は…………色々な事があり過ぎ……)
圭は、ベッドサイドランプを消すと、いつしか深い眠りに吸い込まれていった。
翌日、彼は始業時間の三十分前に出社すると、部署内には、まだ誰も出勤していなかった。
圭は、すぐにパソコンを起動させ、昨夜、視聴したHanaの動画投稿サイトのトップページにアクセスした。
プロフィール欄をスクロールしていくと、一番下に、『感想などありましたら、こちらのアドレスにお願いします』の文章と、メールのアイコンを発見。
クリックすると、メール入力フォームが画面に表示される。
さて、何て書こうか。
圭は、前髪をざっくり掻き上げると、腕を組んでモニターを凝視する。
とりあえず送るか、と独りごちた後、彼はカタカタとキーボードを鳴らしながら、メールを打ち始めた。
『Hana様。突然のご連絡、失礼致します。ハヤマ ミュージカルインストゥルメンツ DTM事業部の葉山と申します。Hana様の楽曲を拝聴させて頂き、DTMで、ここまで迫力のある音楽、または繊細な音楽を奏でられるのか、と感動しました』
子どもっぽい文章力だな、と、圭は語彙力の乏しさに呆れるが、構わずに続きを打つ。
『そこで、Hana様に、ひとつ依頼したい事がございます。現在、弊社が開発中のスマートフォン用の楽曲制作アプリ『スマートミュージック』を使用して、楽曲を制作して頂き、Hana様に使い心地、またはご意見などを伺いたく思っております。お忙しいとは思いますが、お返事を頂けたら幸いです。以上、よろしくお願い致します』
圭は、内容を確認した後、送信ボタンをクリックした。