家から一番近いこの『cafe over the moon』には、
引っ越し当日に一度来たきりだ。
昨日までは引っ越しの片づけで家に缶詰め状態だったので、なかなか来られなかった。
今日からは通常モードに戻り理紗子のカフェタイム復活だ。
平日の午前中、空いた時間帯を狙ってカフェで小説を書く。
コーヒーの香りが漂い緩い音楽が流れる空間で、
人々は思い思いにリラックスした時間を過ごす。
そんな雰囲気の中での執筆は、自宅で集中して書くよりも作業効率がいいから不思議だ。
数年前までは満員電車に揺られ、時間に縛られた毎日だった。
小説を書きたいと思っても、書く時間が思うように取れない。
そんな自由のない暮らしは自分には向いていないとずっと思っていた。
でもいつの間にかそんな生活からは解放されていた。
失恋がきっかけとなり今の生活へと変化した訳だが、
こうなってみると失恋もそれほど悪い事ではなかったのかもしれない…そんな風に思えた。
理紗子は店内に入ると、アイスカフェラテの大きいサイズとバナナマフィンを注文した。
今日の接客担当は、笑顔がチャーミングな大学生くらいのハーフの青年だった。
会計を済ませ青年が用意してくれたトレーを受け取ると、
理紗子はありがとうと言ってからカウンター席へと向かった。
『cafe over the moon』のカウンターは、他のカフェのカウンターとは異なる。
それは、カウンターテーブルの奥行きがとても広いという事だ。
カウンター上にパソコンや書類を広げても余裕があるのが嬉しい。
もちろんネットや充電環境もバッチリだ。
このカウンターの広さは、カフェで仕事をする人にとってはポイントが高い。
理紗子はカウンター席の右端に行くと、
早速パソコンとノートを取り出しテーブルの上に広げた。
今から二時間くらいはここで仕事をする予定にしていた。
その時、カフェの自動ドアが開き、また客が一人入って来た。
入って来たのは背の高いスタイルの良い男性で、ジーンズに黒のポロシャツを着ていた。
スラッとしているが適度に筋肉がついている。
ジム通いをして鍛えている雰囲気だ。
男性は甘いマスクのかなりのイケメンで、
センターパートの長い前髪が緩やかに顔にかかるヘアスタイルが、
大人の男の色気を引き出していた。
男性が店に入った瞬間、近くに座っていた女性達が一斉に彼を見つめた。
女性達の表情は頬が紅潮しうっとりした様子だった。
男性がカウンターへ行くと、すぐにストアマネージャーが気づいて声をかけた。
どうやら二人は知り合いのようだ。
男性はストアマネージャーと親し気に話をしながら会計を済ませると、
コーヒーを受け取り奥の席へ移動した。
男性が座った席は、ちょうど理紗子の真後ろにあるテーブル席だった。
その時理紗子は、イヤホンをして音楽を聴きながら軽快にキーボードを叩き始めていた。
聴いていた曲は、最近見つけたインディーズバンドのもので、
今書いている小説のイメージによく合う。
一曲目の軽快な音楽は、小説の主人公二人が初デートをする際のイメージにぴったりの曲で、
理紗子は音楽のリズムに合わせるようにノリノリで腰を小さく振りながら、キーボードを叩き続けた。
椅子に腰かけコーヒーを飲もうとしていた男性は、
目の前で小刻みに揺れる理紗子の美尻に気づいた。
白いパンツに覆われた理紗子の尻は、厚さや大きさ、そして肉付き具合や丸みが
その男性の好みにぴったりだった。
男性はスマホを出して画面を見つめながらコーヒーを飲んでいたが、
前で揺れる尻にどうしても目が行ってしまう。
(女に飽き飽きしている俺が、目の前の尻に目を奪われるとは…)
男性は心の中でそう呟くと、苦笑いをしながら意識をスマホへ集中させた。
その時、女性の脇から何かが落ちた。
落ちた物は椅子に当たり、甲高い金属音を立ててから床に転がった。
それはボールペンだった。
ボールペンはころころと転がり、男性の足元で止まった。
男性はすぐにボールペンを拾った。
ペンを落とした事に気づいた理紗子は、少し座面の高いカウンターから
するりと降りると、落ちたペンを拾いに男性の前に来た。
そして申し訳なさそうに言った。
「すみません、ありがとうございます」
「いえ………….あっ?」
男性はそう言うと、しばらくびっくりしたような顔をして理紗子の顔を見ていた。
あまりにもじっと見つめるので、
「あの…….?」
理紗子がそう問いかけると、男性はハッとしたように我に返り、
「あ、いえ……..」
そう言って理紗子にボールペンを渡した。
理紗子は不思議な顔をしながら、もう一度軽く会釈をすると、
自分の席へ戻って行った。
カウンター席へ座った理紗子は、
(イケメン過ぎてびっくりだわ! それにしてもなんであんな顔をしていたのだろう?
もしかして私の顔に何かついてる?)
そう思い、先程食べたバナナマフィンが口の周りについているのかもと思い、
紙ナプキンで口の周りを拭う。
それから、また仕事へと集中し始めた。
コメント
2件
ノリノリで仕事する理紗子さん可愛い❤️その美尻に目を奪われるイケメンは…❔🤭
エブからとんできました。再度読みです。お邪魔します。りさこちゃんはやっぱりかわいいですね~🩷