途中コンビニに寄り、華子はリムーバーを買う。
華子の爪は、この時ジェルネイルではなく普通のマニキュアだったので、
すぐに落ちるので助かった。
ジェルネイルだとそうはいかない。
コンビニから戻ると、そのまま車の中でネイルを落とそうとしたが、
あっという間にカフェに着いてしまったので諦める。
昨日と同じパーキングへ車を停めると二人は車を降りてカフェへ向かった。
店へ入ると、店の雰囲気は昨夜とは全く違っていた。
夜のバータイムは、オレンジ色の間接照明がメインの薄暗い雰囲気だったが、
朝のこの時間は、窓から燦々と降り注ぐ太陽の光でとても明るい。
店内では既に男女二人のスタッフが開店準備をしていた。
陸と華子が店に入ると、二人はすぐに気づいて作業を止める。
そして二人に挨拶をした。
「「おはようございます」」
「おはよう。二人ともちょっといいかな?」
陸の声で二人がこちらへやって来た。
「こちらは三船華子さん。今日から九時~五時でアルバイトに入ってもらいます。飲食での経験は有りだけれどブランクがかな
りあるようだから一から教えてあげて下さい」
陸が華子の方を見たので華子は挨拶をする。
「三船です。よろしくお願いします」
「店長の中澤です。わからない事があったら遠慮せずに何でも聞いて下さいね」
「パートの野村です。よろしくお願いします」
華子はもう一度ペコリとお辞儀をした。
中澤という店長は30歳くらいの男性だった。爽やかで人当たりが良さそうだ。
一方、パートの野村は40代くらいの女性でおそらく主婦だろう。
物腰の柔らかな優しそうな女性だった。
二人とも感じが良さそうだったので華子はホッとする。
華子が以前働いていた職場、つまり化粧品の販売員や銀座のクラブで働いていた時は、
毎日が女同士のバトルだった。
もうあんな酷い場所では働きたくないと思っていた華子は安心する。
「じゃあ、雇用関係の書類を書いてもらうんでちょっとしばらく奥にいるから」
「「わかりました」」
店長の中澤は華子ににニッコリと微笑む。
パートの野村も、
「じゃあ後でね」
と声をかけてくれた。
二人から優しくされた華子は、なんだかくすぐったい気分になる。
人の優しさに触れたのは久しぶりのような気がした。
事務所兼休憩室に行くと、陸は窓際にある事務机の引き出しを開けてガタガタと書類を探し始める。
その間に、華子は椅子に座ってネイルを落とし始める。
その瞬間、事務所にリムーバーのキツイ匂いが充満する。
「ちょっと窓を開けるぞ」
陸は窓を少し開けた。
書類を見つけた陸は華子の前に座った。
そして、華子がネイルを落としているのを見ながら書類についの説明を始める。
雇用契約書にはサインと印鑑がいるらしい。
「印鑑は荷物が来ないとないわ」
「来てからでいいよ。ただ、ここの日付は今日の日付を記入してくれ」
「わかった」
「あとこれな」
「何? それ?」
「検便だ!」
「えっ? 私アルバイトよ? やる必要あるの?」
「一応飲食だから決まりなんだ」
「えーっ? 大学生の時はそんなのやらなかったわよ」
「テキトーな店で働いてたんだな」
「とにかくそんな面倒な事嫌よっ!」
「決まりだからしょうがないだろう?」
その時陸は何かを思いついたようにニヤッと笑った。
「自分でやるのが面倒なら俺が採ってやるぞ」
「ハッ? バカじゃないのっ? この変態おやじっ!!!」
華子はリムーバーがついたティッシュを陸めがけて投げた。
華子の怒った様子が可笑しかったのか陸は声を出して笑う。
「とにかく頼んだよ」
陸はそう言うと、ちょうどテーブルの上にあった華子のバッグに検便の容器を入れた。
華子はムスッとしたまま、ムキになってネイルを落としている。
しかしムキになったお陰であっという間にマニキュアが取れて自然な爪の色へ戻った。
「おっと、そうだ、エプロンエプロン…」
陸は事務所の角に積んであった段ボールの中から、新しいエプロンを二枚取り出す。
「一人二枚支給だ。これをつけて頑張ってくれたまえ!」
陸から受け取ったエプロンは、黒色のシンプルなものだった。
コーヒーの染みが目立たないように、黒色なのだろうか?
とにかくそのエプロンは、全国チェーンの人気カフェでバリスタがつけているものと似ていた。
(エプロンのデザインはまあまあ合格ね)
華子はそのシンプルなエプロンが気に入ったようで、早速エプロンをビニール袋から取り出した。
(エプロンの下にパリッとした白シャツを着たら、バリスタっぽくて素敵かも!)
途端にそんなイメージが浮かんで来る。
そう言えば、店長の中澤も白シャツにこのエプロンを着けていて結構サマになっていた。
途端に華子はご機嫌になる。
どうせ働くならお洒落に働きたい。
華子は、エプロンの下に着る服や、髪をどう纏めるかなどをあれこれと考え始めた。
そして、今日髪の毛を肩に垂らしたままな事に気付き慌ててヘアゴムを取り出すと、
ウェーブのかかった長い髪を後ろで一纏めにした。
華子が髪を纏めるのを見ていた陸は、その艶っぽさに一瞬目が惹きつけられたが慌てて目を逸らす。
先ほどまでは気まぐれな子猫のように振る舞っていたのに急に色気を匂わせた華子を見て、
(魔性の女だな…)
陸はそんな事を思う。
そして一度咳ばらいをしてから華子に言った。
「ロッカーはここを使ってくれ」
陸は空いたロッカーを指差しながら鍵を華子に渡した。
華子は早速バッグやコートをロッカーへしまう。
「じゃあ今日はパートの野村さんについて、色々教えてもらって」
「はーい」
華子はエプロンを着けてから返事をすると、控室を出てフロアへと向かった。
コメント
3件
ナチュラルな美人さんに変わった華子さんが 気になる様子の陸さん....💕🤭 華子さん、お仕事も頑張ってね~‼️💪
魔性の猫🐈⬛華子🌟ナチュラル美人になったら陸さんも目が離せなくなるのでは😅仕事も頑張って〜華子❣️
働く女性は素敵に見えますからね。華子さん頑張って~🙌