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📩 相談メール(高校2年・女子)
件名:ここにいていいのか、よくわからないです
本文:
日下部さん、こんばんは。
私は高校2年生です。クラスでも部活でも、問題はありません。むしろ「明るい子」「しっかりしてる」って、よく言われます。でも本当は、家でも学校でも、誰の前でもちゃんとしてないといけない気がして、ずっと疲れています。
私は、嫌なことがあっても笑います。無理をしても、黙ってやり過ごします。誰にも嫌われたくないから。でも気づいたら、誰のことも本当には信じられてないし、自分の気持ちがわからなくなってきました。
本音を出したら、嫌われる気がします。だから「大丈夫」って言ってしまう。でも、もう少しで壊れてしまいそうで、怖いです。
ここにいていいのか、私がわからなくなってきました。
ごめんなさい、こんな話。誰にも言えなくて、ここに書いてしまいました。
相談室に人の気配はない。
けれど、机の上には一通のメールが印刷されて置かれていた。
日下部はそれを手に取り、無言のまま読み終えると、深くため息をついた。
「……みんな、“ちゃんとした人間”ってやつに、なろうとするな」
ぽつりと、それだけが口をついて出る。
誰もいない部屋に向けた独り言。けれどそれは、明らかに、誰かに届いてほしい言葉だった。
机の引き出しからノートを取り出し、ボールペンを走らせる。
文字は整っていない。文章も少し乱暴だ。けれど、真剣だった。
誰にも嫌われたくなくて、全部「大丈夫」って言うの、
それ、俺も昔やってた。
言わなきゃいけない場面ってあるし、
実際それで乗り切れてしまう場面もある。
でも、「大丈夫」って言いながら、
本当はその言葉の下で泣いてる自分を、ずっと置き去りにしてた。
気づくと、自分がどこにいるのかわかんなくなるんだよな。
「ちゃんとした人」って鎧が、自分を食っていく。
それでも、ここに来てくれたのは正直、すごいと思う。
誰にも言えなかったって言ってたけど、ちゃんと届いてるから。
自分の本音、ここに書いていい。
書いたぶんだけ、取り戻せるかもしれない。
今のあなたがここにいていいかって?
……いてくれないと、困る。
俺は、ちゃんと読むから。
書き終えたノートのページを破り、机の上にそっと置く。
誰が取りに来るのかなんて、わからない。返事が返ってくる保証もない。
それでも、日下部はもう一度、印刷されたメールに目を落とし、静かに言った。
「ここが“居場所”ってわけには、すぐにはならねぇかもしれないけど……せめて、壊れんなよ」
そう呟いた彼の横顔は、どこか昔の自分を思い出しているようだった。