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「……マジ…………かよ……」
圭は、『家庭料理 ゆき』で食事を済ませた後、立川駅すぐの自宅マンションへ戻ってきた。
昨年のクリスマス、圭の失態を見ていた女が、まさか初めて入った店の店主の娘なんて、こんな事があるのか、と、彼は舌打ちをする。
突然の降格、副社長からDTM事業部に異動させられ、課長の肩書きはあるものの、同期の上司に頭を下げるのは、何度も思うが、屈辱しかない。
DTMがどういうものか知るために、DTM界で有名なHanaの動画投稿サイトを観てくれ、と言われ、Hanaに連絡を取り、現在開発中のスマートミュージックを使ってもらい、使用感を聞く依頼をする羽目になった。
「…………今日は厄日だな」
圭はシャワールームに向かい、身体と頭を念入りに洗うと、スウェットに着替えて、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
ソファーにドカッと腰を下ろすと、プシュッと爽快な音を立てながらプルタブを引き、グビグビと喉に流し込む。
「まぁ……俺が自分で蒔いた種だけどさ…………DTM事業部の異動はないだろ……マジでやられた……」
広いリビングに、圭の愚痴が虚しく響くが、決まってしまったものは覆らない。
「とりあえず、部長様がおっしゃるHanaの動画投稿サイトを観てみるとするか……。に、しても、面倒くせぇ……」
残りのビールを一気に飲み干した圭は、気だるそうに立ち上がると、パソコンの電源を入れた。
『Hana 動画投稿サイト』とワードを打ち込み、検索のアイコンをクリックすると、結果一覧がモニターにズラリと並んでいる。
トップに表示されている『Hana トップページ』にアクセスしてみると、色とりどりの花の画像のヘッダーの右下には、両手でハートマークを作った画像のアイコン。
プロフィールには、『父の影響を受けて、DTMを始めました。色々なジャンルの曲作りに挑戦したいです!』と記されている。
(へぇ。お父さんの影響で始めたのか……)
圭は、モニターを注視しつつ、スクロールさせていく。
プロフィールの下には、投稿した楽曲の一覧が整然と並んでいた。
英語の曲名しか見当たらないが、ハッシュタグには曲のジャンルも書いてある。
恐らくHanaは、ポップスとかダンスミュージックなど、ノリのいい曲を中心に作っているのだろう。
数曲ほど視聴してみると、パソコンだけで迫力のある演奏ができるのか、と圭は目を見張らせた。
さらに、スクロールさせていくと、英語ばかりの曲のタイトルの中に、ポツンと日本語のタイトルを発見する。
『桜舞い散る如く』と記され、ハッシュタグは、ピアノソロとある。
曲紹介には『…………そして、ハラハラと桜舞い散る如く、私の中で、何かが終わった』だけしか記されていない。
圭は、桜の花のサムネイルをクリックして、視聴し始めた。
♪桜舞い散る如く Compose@2004♪