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どこまでが夢でどこからが現実なのか。
どうやらトイレにきてそのまま寝てしまったらしい僕は、濡れた床に手をつき立ち上がる。
気分がすぐれない……開きっぱなしのドアを抜けて廊下を歩く。
ギッギッギッと鳴る床に不快感を感じる。なんだ?
床を見れば足あとがある。くすんだ赤茶色の足跡だ。
何かを思い出しそうだが、それより先に寝室に辿りついた。扉は開けっぱなしだ。いよいよ昨日の記憶がない。
いつもなら匂う朝食の香りはなく、まだよほど早い時間なのか、外にも人の気配はない。
妻の寝る寝室に入ってもう一眠りしたい。
そう思いながら寝室に入ると、そこには妻だったものと、別の部屋には子どもとその家族だったものが仲良く寝ていた。いずれも刃物で胸を抉られ、切り刻まれた姿で。
僕は縋り付いた。妻に、子どもたちに。
けど欲しかったおはようの言葉はついに聞くことはなかった。涙も鼻水も涎もこれでもかと流して、声も枯らしてから、こんな近所迷惑な慟哭に未だに誰も訪れないどころか、いつもなら聞こえるはずの人の声も聞こえないことに気づいて、家を出たんだ。
外には誰も居なかった。ただ、全ての家が玄関を開けたままになっていて、死臭が漂っていた。
そこからは早かった。目につく家全てに入って、その全てで死体にしか出会わなかった。
僕は、あまりの出来事に道の真ん中で倒れて、立てなくなった。立ちたくなかった。このままどうにかなってしまいたかった。
いっそ沈み込んで埋まって死ねればいいのにとか考えた。
「おお、ひとりか。しかし偉大な結果だ。1/162。決して悪い数字ではないじゃろう。ひっひっひっ……」
突如そんな言葉が、聞こえた。
162……それはたしか昨日この村にいた人数だ。
「だがこれは──もうダメじゃな。生きる力というよりは死なない力というところか。あの肉は使えん。実験は成功したが不死以外の何もなくなっておるわ」
声のする方へ顔を向ける。そこには昨日の行商人と見覚えのある気がする剣を持った不気味な鎧兜の男がいた。