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相談室の扉が閉まると、空気が少し重くなる。 今日の相談者は、肩を落とし、視線を床に向けていた。


「……俺、自分でもよくわかんないんだ」


声は低く、途切れ途切れに出る。


「どういうこと?」


遥は机に肘をつき、頭を支えながら問いかけた。


「……強がってるくせに、ビクビクしてるし。笑ってるくせに、すぐ泣きたくなる。頑張るって言いながら、全部放り投げたい気持ちがある」


相談者は顔を上げず、言葉だけが重たく落ちてくる。


遥は小さく息を吐いた。

――わかる。

俺もそうだ。

家では「強くあれ」と言われ、学校では「存在感を消せ」と教えられた。

笑わなきゃ、耐えなきゃ、怒られなきゃ生き残れない。

でも、本当は泣きたいし、逃げたいし、誰かに甘えたい。


「……矛盾だらけなんだよな」


相談者は小さく笑った。


「笑ってるくせに泣きたがる。怒られるのが怖いくせに、強がりたがる。誰かに認められたいくせに、近づかれるのが嫌だ」


遥はその声に、胸の奥がぎゅっと締め付けられるのを感じた。

――俺も、同じだ。

誰かに「大丈夫?」って聞かれれば、無視してしまう。

褒められれば、嘘だと思う。

助けたくても、どうしていいかわからない。


「……だから、俺はずっと迷ってる」


遥は低く言った。


「自分が正しいのか間違ってるのか、何をしたいのかも、全部わかんない。矛盾だらけで生きてる」


相談者はふっと肩の力を抜いたように見えた。


「……でもさ、矛盾だらけでも、俺はここにいるんだよな」


その言葉は、ただの確認でも、自分を励ます呪文でもあるみたいだった。


「そうだよ」


遥は小さく笑った。声は弱々しいけど、確かに届く音だった。


「矛盾だらけでも、生きてる。それだけでいいと思う」


相談者は少し目を伏せたまま、言葉を選んでいた。


「……でも、俺、強くなれないし、ちゃんとできる人間でもない。こんなんで、生きてていいのかな」


遥は少し戸惑った。言葉がすぐに出てこない。

でも、目の前の少年の肩越しに、夕日の光が差し込んでいるのを見て、なんとなく口を開いた。


「俺も強くないし、できることなんて少ない。でもさ、できないままでも生きてていいと思う」


小さく、でも強めに言った。自分でも驚くくらい、自然に出てきた言葉だった。


「矛盾だらけで迷ってるままでも、生きてていい。間違ってもいいし、失敗してもいい。……そうやって呼吸してるだけで、充分だよ」


 相談者は少し目を上げ、遥を見た。


「……呼吸してるだけで、いいのか」


「うん」


遥は肩をすくめた。


「俺だって、やりたいことなんてわかんないし、全部中途半端。でも、ここにいる。息してる。それで十分」


短い沈黙が訪れた。

窓の外では、夕日がゆっくりと沈み、教室に淡いオレンジ色の光を落としている。

矛盾だらけの自分を抱えたままでも、二人は静かに、同じ空間で存在していた。


「……なんか、少し楽になった気がする」


相談者の声はまだ小さいけれど、どこか柔らかさを帯びていた。


遥はにっこり笑ったわけではない。

でも、少しだけ肩の力が抜けているのを自分でも感じた。


――矛盾だらけのままでも、生きていける。


この瞬間、それだけで救いになるのだと、ようやく思えた。


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