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#だてなべ
milk
22:45
向井は無心でシャワーからでる冷水を頭から被る。
冷水のはずなのに「冷たい」と全く感じず、むしろなぜか少しだけ不安や恐怖が和らぐほどの安心感を覚えた。
その感覚はさながら「水を得た魚」のようだった。
最近無性に水を欲していたのは、こうなる事への前兆だったのではないか。
🧡(足りひん……)
シャワーだけでは物足りず浴槽にも水を貯め始める。
浴槽になみなみと張られていく水に浸かり、向井は自分の変わり果てた脚をボーッと見つめていた。
水の中で揺らめく鱗と尾鰭の色が光を放っている。
一見ただの鱗だが光の当たり方によっては少しオレンジ色のようにも見える色をしていた。
尾鰭も若干オレンジがかっているようだ。
生活は?
仕事は?
家族は?
友達は?
まだ今後のことまで頭も回らない。
🧡(めめ……ごめんな……)
ただ目黒に対する罪悪感がいまだモヤモヤと残っている。
向井は心の中で繰り返し謝り続けながらゆっくりと目を閉じた。
00:37
どれくらいの時間が経っただろう、向井には分からなかった。
ただ目を瞑っている間ずっと目黒のことしか考えられなかった。
過去の小さい頃の光景、学生時代で一緒に帰った道のり、自分の恋心を自覚した時の感情、昨日見たばかりの落ち着いた笑顔、
さっきモニター越しに見た心配するような瞳と優しい声。
🧡(ちょっと……取り乱しすぎたな……なんとか誤魔化さんと……)
向井はゆっくり浴槽から身を乗り出し、風呂場から出る。
目黒に弁解のメッセージを送るためだった。
🧡(なんて言おう……仕事で〜とか言うとこうか…?いや家族の話とかにしとこうかな…あでもそれやとバレやすいか…ラウールにも話いくやろな…)
🧡(めめ忙しいやろうに……最悪……めめにはもう会わんほうがええんかもしれん……拒絶されるほうが……怖い……)
考えもまとまらないままベッドに放置していたスマホを手に取る。
スマホ画面に映る時刻はすでに0時を過ぎていた。
時刻の下に複数の通知が表示されていた。
そこには、ずっと考えていた相手の名前もあった。
🧡「えっ……めめ……?……えっ……!?」
名前と一緒に書かれていたメッセージに向井は目を見開いた。
【めめ:入れてくれるまで下にいるから。】
🧡「嘘やん…!?」
通知がきた時間は22:42
約2時間も前だ。
向井は急いでモニターを確認する。
カメラをオンにすると下のオートロックのエントランスが映し出された。
そこにはエントランスの隅に立ちスマホを眺める目黒がいた。
🧡「なんでなん……なんで…」
信じられない、と急いで目黒に電話をかける。
モニターに移る目黒は着信にすぐさま反応し、
🖤「もしもし?」
と応答してくれた。
自分のスマホから確かにその声も聞こえる。
夢じゃない。
🧡「なんで……なんでなんめめ……なんで……まだおるん……」
言葉が見つからず「なんで」という問いかけしか出来なかった。
目黒はまたモニターカメラの前まで来て覗き込んでくる。直接目があっている訳でもないし目黒からはこちらの顔は見えていない。
なのに目黒の視線が離さないとばかりに自分を捉えてくる。
🖤「あんな泣いてる声きいといてみすみす帰れないでしょ」
なんでもない平然とした声でそう答える。
胸の奥と目頭がまた熱くなる。
🧡「めめ……仕事とか……!家の事とか……!あるやろうに!なんで俺なんか……!俺が気づかんかったらどうするつもりやってん……」
🖤「俺明日オフだし。康二が何も言わないで泣く時は迷惑かけたくないって強がってる時だし。でもインターホン無視しなかったり電話かけてきたりするの優しいよね」
🧡「強がっとらん…ほんまに何もないだけでぇ…!」
🖤「ほらまた泣いてるじゃん。一人で抱えて潰れるつもり? 俺ってそんな頼りない?」
🧡「ちがっ……そんなんやない……!」
🖤「いつか何も言わないでいなくなりそうで俺の方が怖いんだよね」
🧡「うぅ……グスッ…やめてや……めめには……関係あらへん……」
🖤「関係なくてもそばに居ることくらいできるよ」
入り込んでくる。
心の隙間に。
🧡「怖いねん……めめに……嫌われそうで……」
本音がついにこぼれる。
🖤「嫌わないよ絶対」
🧡「わからんやんか…今の俺みたら…絶対ひかれる……」
🖤「今更ひくようなことないよ。何年の付き合いだと思ってんの」
🧡「あるねん!……ホンマに……怖いねん……俺もまだ受け入れられてないねん……」
🖤「じゃあ俺が一緒に受け入れるから」
🧡「うぅ……」
突き放そうとしても温かいものがどんどん心に侵食してくる。
目黒は視線を少しも逸らさずまっすぐ見てくる。
表情も至って真剣だ。
目黒は最後のひと押しに数時間前と同じことをもう一度言った。
🖤「大丈夫だから。康二……開けて?」
向井の本音溢れる心は止まらず、涙も再び流れていた。
本音が溢れた事でその根底にいた隠れた気持ちが露わになった。
「助けて欲しい」
🧡「めめぇ……」
向井はただ名前を呼び、オートロックの鍵を開けた。自動ドアが開き、目黒はすぐさま中に入る。
間もなく目黒が来る。
向井は部屋の鍵も開けるべく脚を引きずり玄関へ行く。
その頃には向井の下半身は全て鱗に覆われ、その姿は完全なる人魚となっていた。
コメント
2件
まじで続き楽しみです! てか待ち続けるめめかっけえなー🖤