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「あの……私、何か大きなミスを……してしまったのでしょうか?」
美花は、居ても立ってもいられず、口火を切る。
「いや。浦野さんは、東京事業所の中でも、特に優秀なリフトマンだよ。資材を輸送してくれている運送会社の運転手からも、大変評判がいい」
谷岡の言葉が途切れ、僅かに息を呑んだ後、口元がゆっくりと開かれた。
「四月一日、静岡の浜松に、静岡事業所が開所する。そこでなんだけど……」
言葉の続きを逃さないように、美花は谷岡を凝視した。
「…………東京事業所で優秀な浦野さんに行ってもらいたい。期間は二年」
「え……? 静岡…………です……か……?」
突然の辞令に、美花の胸中が騒めくと、次第に強く締め付けられていく。
「数日前、本社からの要請があったばかりで、東京事業所内では、まだ公になっていないんだ。俺も散々考えたんだけど、浦野さんが適任と思って、本社に推薦したんだ」
「…………」
入社してから、異動の話が一切持ち上がらなかった事もあり、美花は動揺を隠しきれずにいられない。
(それに……私が異動したら…………圭ちゃんと会う機会が…………かなり減ってしまう……)
谷岡の話を聞きながら、彼女が真っ先に思い浮かんだのは、恋人、圭の事だ。
「お待たせ致しました。アイスコーヒーでございます」
黙ったまま、ただ時間だけが淡々と流れていく中、恵菜がアイスコーヒーを運び、それぞれの前に置いていく。
恵菜が『失礼します』と小さく一礼した後、そっと離れていった。
濁ったような雰囲気が停滞している中、互いに無言の上司と部下。
「静岡事業所では、主に物流事業部の部長のサポートをしてもらう事になるだろう。もちろん、リフトマンの業務も並行してやっていくようになると思う」
重く閉ざされた谷岡の口元が、ようやく開かれ、淡々と説明していった。
「今日、この話を浦野さんにしたのは、仕事の引き継ぎや、引越しなどの準備を考慮した。それに、静岡事業所が開所する前にも、準備がある」
上司は喉が渇いたのか、アイスコーヒーのグラスを手に取り、一口含んだ。
谷岡の説明を聞きながら、美花はまつ毛を伏せ、目の前のアイスコーヒーのグラスに目を配る。
「実際に、浦野さんが静岡で業務を開始するのは、三月の連休後だ。突然の事で、浦野さんも驚いているだろうし、急な事で申し訳なく思っている。浦野さんの正式な返事を、一週間後の二十日までに、聞かせて欲しい」
「…………了解……です……」
以降、美花と谷岡は沈黙したまま、アイスコーヒーを口に運んだ。
恵