コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
別れた理由もよくわからなかったし。いつでも話せる環境にいるのに、肝心なことは何も話せない。
そのもどかしさでおかしくなりそうだった。
「はい、すぐメール添付して送りますね」
何も変わらない元カレに悲しみがつのっていった。なぜこうなったのか、理由が聞きたかった。
それでも、もう|他の人《燎子》の恋人である以上、話すことは何もない。
「藤原さん」
唐突に後ろから話しかけられてビクッと肩が震えた。
「はい」
くるりと振り返ると、永井くんが会議の資料らしきものを持って立っていた。「ど、どど、どうかした?」
昨日の今日だ。もういつもの永井くんだと思って接するのは難しい。
変な胸の高鳴りで、舌がうまく回らない。
「この商品のモニターアンケートって集計済みですか?」
そう言いながら、永井くんは新商品の写真を見せてくる。
冷静で、少しぶっきらぼうな雰囲気。仕事はできるけど、ちょっとだけ距離を置かれている印象のある永井くん。
それでももちろん仕事はできるし、必要なコミュニケーションはきちんと取るし、会社にはなくてなならない存在だ。
「ちょ、ちょうど今それやってるから、あとで送るね。急ぎ?」
「午後の営業先に行く前には確認したいです」
「じゃあ、11時までには集計終わらせるよ」
「お願いします」
話を終えてデスクの方に向き直す。
あーーーー!! びっくりした。
抱かれたのなんか嘘のようにいつも通り。それがよけいにドキドキする。
いやいやいや、仕事中だよ。何考えてるんだろう。集中しなくちゃ。
大きく息をついて、パソコンにむかう。ガツガツとアンケート集計をこなして、社内チャットに添付して永井くんに送信した。
そっと視線を上げて、少し向こうの営業部のシマにいる永井くんに目を遣る。
外に出ていることが多いので、座っているのは珍しい。
きれいな顔だな。
ちょうど見える永井くんの顔は、相変わらず端正で美しい。
こちらの視線に気がついたのか、パソコンを見ていた永井くんの目がすっとこちらを向く。
あわてて目を逸らして、すぐ仕事の続きを始めた。なんか変に意識してドキドキが止まらない。
だめだな、これは。
ちょっとお手洗いにでも行って気持ちを何とかしよう。
席を立ち上がって、廊下に出たところでかちんと固まった。「藤原さん、お疲れ様です」
すっとしてきれいな声。
大学時代はアナウンサーを目指していたと風の噂で聞いたことがある。
抜群のプロポーションにエキゾチックな雰囲気。入社してすぐ秘書課の花形に躍り出たのも頷ける。
「……お疲れ様です」
「風見さんに、ちょっとお聞きしたいことがあって。いま居ますか?」
フロアへの出入りは自由だ。
わざわざ聞いてくるのも、嫌がらせなんだろうか。
たいした会話でもないのに、イラッとする自分が情けなく思う。
「はい、いますよ」