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#創作BL
灯依
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ふぁらべら
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ruruha
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ゆずき
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第6話 数値になる笑顔と善意信用
朝の温泉街には、夜のあいだに新しい雪が積もっていた。
屋根も道も、昨日までの足跡を静かに包んでいる。
温泉水路から昇る湯気が通りを漂い、店先では蒸した果実や焼きたてのパンが並び始めていた。
美咲は旅館の窓を開け、冷たい空気を吸い込んだ。
気持ちいい。
隣へ来た陽菜が肩をすぼめる。
寒いけど、目が覚めるね。
悠斗は二人の後ろから町を眺めた。
雪の坂道を、荷物を積んだ小さな車が進んでいる。
道の端では、住民たちが雪を集めていた。
一人が重そうな道具を持ち上げる。
近くにいた青年がすぐに手を貸した。
二人の腕についた輪が同時に光り、数字が変わる。
悠斗は窓枠へ手を置いた。
今、増えたよな。
直人はすでに見ていた。
一人だけじゃない。助けた方も、助けられた方も増えた。
蓮が寝具をたたみながら顔を上げる。
昨日も市場で見た。
陽菜は耳当てをつけた。
善意信用だっけ。
扉が軽く叩かれた。
リセラが朝食の時間を知らせに来た。
五人が廊下へ出ると、彼女の胸元にある端末が淡く光った。
悠斗の名前。
数値。
安心反応。
短い表示は、すぐに消えた。
悠斗は足を止めた。
今、俺の名前が出てた。
リセラの手が端末へ重なる。
体調確認の表示です。
安心反応って書いてあった。
廊下の空気がわずかに固くなった。
美咲が悠斗を見る。
直人はリセラの手元から目を離さない。
何を記録してるんですか。
旅行中の反応です。
どんな反応。
リセラは数歩先へ進み、五人がついてこないことに気づいて振り返った。
安全を感じた瞬間や、感動した瞬間です。
陽菜の眉が上がる。
いつから。
到着したときからです。
美咲の手がマフラーへ触れた。
花畑で眠ったときも?
はい。
夏域の花火も?
はい。
飛行機に乗ったときも?
はい。
蓮は腕を組んだ。
俺たちが笑った回数まで残ってるのか。
回数だけではありません。
心拍。
呼吸。
視線。
声の強さ。
行動の変化。
それらを合わせ、反応値として保存しています。
直人が一歩近づく。
許可した覚えはない。
招待への同意に含まれています。
どこに書いてあった。
地球向けの案内では、体験品質調査と表記されています。
直人の口元がわずかに動いた。
ずいぶん便利な言い換えですね。
リセラは答えなかった。
そのとき、廊下の先からトウラが現れた。
胸元の端末へ何かが届き、短い音が鳴る。
五人の視線が集まる。
トウラは反射的に端末を手で覆った。
美咲が小さく息を吐く。
隠すってことは、見られたくないんだ。
トウラの指が止まる。
リセラは静かに頭を下げた。
朝食後、詳しくご説明します。
悠斗は廊下の窓から町を見た。
外では、先ほどの二人が笑いながら雪を片づけている。
腕の数字はさらに増えていた。
朝食会場には、温かな料理が並んでいた。
香草を練り込んだパン。
根菜の煮込み。
果実を混ぜた飲み物。
窓の向こうには雪山が広がり、湯気が陽の光を受けて揺れている。
係員が美咲の前へ皿を置いた。
美咲がパンを一口食べる。
おいしい。
係員の腕輪が光った。
数字が一つ増える。
係員は嬉しそうに頭を下げた。
美咲はパンを持ったまま、その腕輪を見つめた。
今のは?
係員が笑う。
善意信用です。
私がおいしいって言ったから?
満足していただけたことが確認されたためです。
美咲の笑みがゆっくり薄くなる。
私の反応が、この人の数字になった。
リセラは五人の向かいへ座った。
四季星では、人に喜ばれる行動や社会への貢献を数値として保存します。
それが善意信用です。
陽菜が飲み物の容器を両手で包む。
数字が増えると、何があるの?
生活に必要なものを得やすくなります。
住居。
仕事。
教育。
移動。
医療。
多くの場面で信用値が使われます。
蓮が料理へ視線を落とす。
逆に、低いとどうなる。
選べるものが少なくなります。
直人の箸が止まった。
家も仕事も学校も?
はい。
人を助ければ増えます。
迷惑をかければ減ります。
誰もが善意を意識するため、争いや放置は大きく減りました。
係員が別の客へ飲み物を渡した。
客が礼を言う。
腕輪が光る。
少し離れた席では、子どもが落とした食器を近くの住民が拾っていた。
また数字が増える。
陽菜は会場を見回した。
みんな親切だね。
リセラの表情が柔らかくなる。
四季星では、善意が損になりません。
助けた者が報われます。
美咲はパンを皿へ置いた。
理想的だね。
そう言った瞬間。
リセラの端末が光った。
藤原美咲。
制度肯定反応。
高い数値が表示される。
美咲の顔から表情が消えた。
今のも保存したの?
リセラは端末を隠さなかった。
はい。
どうして。
善意信用制度への反応も、今回の旅行調査に含まれています。
直人が椅子へ深く座る。
観光客が制度を褒めると、誰かの信用が増えるんですか。
リセラの視線がわずかに横へ動いた。
案内事業全体の評価になります。
誰の評価。
主催企業。
案内役。
地域管理者。
旅行に関わった者へ分配されます。
悠斗は自分の手を見た。
俺たちが安心したら増える。
感動しても増える。
褒めても増える。
蓮が続ける。
そのために旅行へ呼んだのか。
皆さんを喜ばせたいという目的に偽りはありません。
直人が顔を上げる。
目的が一つとは限らない。
その言葉に、リセラの肩がわずかに動いた。
朝食後、五人は善意信用案内館へ向かった。
町の中央にある建物で、制度の歴史や仕組みを紹介している。
入口では、子どもたちが体験装置で荷物を運んでいた。
荷物を正しい場所へ置くと、腕につけた仮の輪へ数字が加わる。
子どもたちは数字を見せ合いながら笑っている。
陽菜がその様子を眺めた。
遊びながら覚えるんだ。
トウラがうなずく。
善意を習慣にするためです。
館内には、昔の四季星を再現した映像が流れていた。
食料を奪い合う人々。
助けを求めても通り過ぎる者。
病気になり、働けなくなった者。
やがて善意信用が導入される。
食事を分けた者へ数字が入る。
病人を助けた者にも入る。
道を整えた者。
子どもを守った者。
数字が増えるほど暮らしが安定し、町の争いが減っていく。
映像の最後には、大きな文字が浮かんだ。
善意は、見える形にすることで守られる。
美咲は映像を見上げた。
悪い制度には見えない。
悠斗もうなずく。
助けた人が報われるのはいいと思う。
陽菜は隣の展示へ移った。
そこには、善意信用の高い住民が紹介されている。
毎朝、通学路の雪を片づける者。
高齢者へ料理を届ける者。
野生動物の保護を続ける者。
写真の中の全員が穏やかに笑っていた。
蓮が表示を読む。
住居選択権。
長距離移動権。
家族優先医療。
仕事推薦。
善意を積むほど、生活がよくなる。
直人は展示の下へしゃがんだ。
小さな注意書きがあった。
信用値が基準を下回った場合、生活指導区へ移動することがあります。
直人が声に出すと、陽菜が振り返った。
生活指導区って?
トウラが近づく。
信用を回復するための支援施設です。
何をするの。
仕事の訓練。
生活習慣の改善。
他者への貢献活動です。
外へ出られる?
信用が回復すれば。
直人は立ち上がった。
回復しなかったら。
トウラは答えるまで少し間を置いた。
支援が続きます。
蓮が低い声を出す。
それは支援なのか。
本人のために行われます。
美咲が展示された笑顔を見る。
全員が理想的って言う理由、少し分かる。
数字が高い人には、本当に理想的なんだ。
陽菜が腕を抱く。
低い人には違うのかな。
館内では明るい音楽が流れていた。
子どもたちが体験装置で数字を増やしている。
何度も。
何度も。
失敗した子どもの数字が減った。
その子の顔が固くなる。
すぐに隣の子どもの荷物を持ち、数字を取り戻した。
笑顔が戻る。
悠斗はその一連の動きを見ていた。
助けたいから助けたのか。
減った数字を戻したかったのか。
どちらでも、荷物を持ってもらった子どもは助かった。
それでも胸の奥に、薄い引っかかりが残った。
案内館を出ると、広場で催しが始まっていた。
町の住民が旅行客へ料理を配り、雪像作りを手伝っている。
五人も作業へ加わった。
陽菜が雪を丸める。
美咲が形を整える。
蓮が大きな塊を運ぶ。
悠斗が倒れそうな部分を支える。
直人は少し離れ、全体の形を見ていた。
完成すると、周囲から拍手が起こった。
美咲が笑う。
できた。
その瞬間。
リセラとトウラの端末が同時に光った。
感動。
達成。
集団結合。
満足。
数値が次々に保存される。
陽菜は自分の手についた雪を見つめた。
さっきまで楽しかったのに。
美咲がそばへ寄る。
今は?
楽しいよ。
でも、楽しいって思うたびに、誰かが数えてる。
蓮は雪像の表面を手袋で整えた。
俺たちの気持ちなのに、向こうの持ち物みたいだ。
悠斗はリセラを見た。
保存したものは、消せるんですか。
リセラの指が端末の縁へ触れる。
規則上、消せません。
地球へ帰っても残る?
はい。
何年。
期限はありません。
五人の笑顔。
驚き。
安心。
涙。
そのすべてが、四季星に残り続ける。
直人が広場の上を見る。
屋根の縁。
街灯の柱。
雪像の近く。
小さな記録装置が幾つも設置されている。
夏域では景色に夢中で気づかなかった。
秋域でも料理や香りばかり見ていた。
冬域の飛行場でも、端末の音を聞き流していた。
旅行が進むほど、記録は増えている。
直人が一つの装置を指した。
あれも。
トウラがうなずく。
広場の安全確認用です。
また安全か。
直人は装置の真下へ立った。
俺が今、疑ってることも数字になる?
トウラの端末が鳴った。
高瀬直人。
警戒反応。
直人が笑う。
答えが出た。
夕方。
五人は温泉街を見下ろす展望所へ案内された。
雪をまとった山。
湯気に包まれた町。
軒先へともる灯り。
遠くでは小型飛行機がゆっくり飛んでいる。
美咲は手すりへ両手を置いた。
きれい。
端末が鳴る。
美咲はすぐに振り返った。
リセラの画面に数値が増えている。
美咲の眉が下がる。
もう、きれいって言わない方がいいのかな。
リセラの瞳が揺れた。
言葉を止める必要はありません。
でも数字になる。
はい。
リセラさんは、うれしい?
善意信用が増えるから。
リセラは展望所の景色へ目を向けた。
案内役として評価されることは、うれしいです。
美咲は返事を待った。
リセラは続けなかった。
陽菜がそばへ来る。
それだけ?
風が吹き、リセラの淡い紫の髪が揺れた。
皆さんが楽しんでくださることも、うれしいです。
本当に?
はい。
数字がなくても?
リセラの指が端末の上で止まった。
その問いに答えるまで、ほんの少し時間がかかった。
はい。
陽菜はリセラの横顔を見つめた。
言葉はまっすぐだった。
けれど、間が残った。
帰り道。
広場の端で、一人の老人が荷物を落とした。
中身が雪の上へ散らばる。
近くを歩いていた住民が、一斉に駆け寄った。
一人が袋を拾う。
一人が老人を支える。
一人が濡れた品を拭く。
腕輪が次々に光る。
老人は何度も頭を下げた。
誰も嫌な顔をしない。
美咲は立ち止まった。
やっぱり、いい制度にも見える。
悠斗が老人たちを見る。
実際に助かってる。
蓮がうなずく。
数字のためでも、誰も来ないよりはいい。
直人は少し離れた場所を見た。
そこに一人の住民が立っていた。
荷物を拾おうとしたが、ほかの者が先にすべて拾ってしまった。
住民は腕輪を見た。
数字は増えない。
周囲を見回し、老人の肩についた雪を払った。
それでも数字は動かなかった。
次に老人の靴へ手を伸ばす。
老人が困ったように足を引く。
住民の腕輪が震え、数字が減った。
その顔から笑みが消える。
直人が小さく言う。
善意まで競争になる。
美咲の視線が、その住民を追った。
誰かを助けたいのか。
数字が欲しいのか。
本人にも分からなくなっているように見えた。
夜。
旅館の部屋で、五人は机を囲んだ。
悠斗が声を落とす。
今日分かったことを整理しよう。
直人が指を一本立てる。
俺たちの感情は、到着時から記録されている。
二本目。
感情の数値は、案内役や主催企業の善意信用になる。
三本目。
善意信用は住居、仕事、教育、移動に使われる。
四本目。
低い者は生活指導区へ送られる。
美咲が続ける。
みんなは理想的な制度だって言ってた。
陽菜は膝を抱える。
嘘をついてる感じはしなかった。
蓮が窓の外を見る。
本気で信じてるんだろ。
悠斗は夏域の花火を思い出した。
胸が震えるほど美しかった。
秋域の料理も、冬域の飛行も、本当に楽しかった。
記録されていたからといって、その気持ちが偽物になるわけではない。
それでも、知らないうちに利用されていた。
どちらも本当だった。
だからこそ、簡単に怒ることも、信じることもできない。
直人が机の上へ案内館でもらった紙を広げた。
端に小さな印刷がある。
地球招待事業。
感情資源部門。
美咲が文字を読む。
感情資源。
私たちの気持ちを、資源って呼んでる。
陽菜が紙へ顔を近づける。
旅行部門じゃないんだ。
直人はさらに下を指した。
旅行工程協力施設。
春域入眠施設。
夏域温泉管理部。
秋域記憶香料部。
冬域飛行事業部。
全部が一つの感情資源部門につながってる。
蓮の眉が寄る。
最初から、反応を集める旅だった。
悠斗は紙を見つめる。
旅行の裏で、何かが動いてる。
俺たちが楽しむほど、数字が集まる。
その数字が、誰かの暮らしをよくする。
直人が顔を上げる。
誰かの暮らしだけな。
美咲は窓の外へ目を向けた。
温泉街の灯り。
降り続く雪。
湯気。
笑い声。
誰もが穏やかに暮らしているように見える。
理想的な制度。
理想的な旅行。
理想的な案内役。
整いすぎていた。
陽菜が小さく言う。
悪いところを説明できないのに、何か変。
蓮も窓の外を見た。
親切なのに、逃げたくなる。
悠斗は机の上の紙を折りたたんだ。
善意を数字にしたことが悪いのか。
数字を生活に使うことが悪いのか。
俺たちの感情を集めることが悪いのか。
まだ分からない。
直人が答える。
分からないように作られてるのかもしれない。
部屋の隅で、小さな音が鳴った。
五人が振り向く。
壁に飾られていた雪の結晶型の装飾が、一瞬だけ光った。
中央に数字が浮かぶ。
集団警戒反応。
保存完了。
直人が立ち上がり、装飾を壁から外した。
裏側には記録端末が埋め込まれていた。
美咲が息をのむ。
部屋の中まで。
悠斗は閉じた扉を見る。
廊下には誰もいない。
それでも、五人の会話はすでにどこかへ送られていた。
陽菜が端末を見つめる。
旅行の裏で動いてるものって、これだけなのかな。
誰も答えられなかった。
窓の向こうでは、善意信用の高い住民を祝う灯りが町の中央へともった。
温かな光景だった。
五人の胸に残った違和感だけが、数字にならない形でゆっくり大きくなっていった。
コメント
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第6話、読み終えたよ。善意信用、めっちゃ考えさせられる設定だな…。「助けた人が報われる」って一見理想的だけど、感情が全部数値化されて資源扱いされるの、気持ち悪さがじわじわ来る。美咲が「きれい」って言った瞬間に端末が鳴るあたり、ゾッとした。リセラが「数字がなくても嬉しい」って言うまでの間も、すごく気になる。この違和感、どう解消されるんだろう…次が楽しみ🔥