テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
#ハッピーエンド
草凪葉月🌙⭐️🐈⬛@活休中?
「間食を用意致しました。イヴィル様」
気が付くと知らない部屋にいた。
知らない部屋はやたらと豪華な部屋だった。
無駄に広い部屋の天井にはシャンデリアはぶら下がっている。
俺こと笠原 悠馬はコンサルを生業にしていた。
昔からの趣味であるアニメやゲームを除いては徹底的に無駄を省いていた。
無駄を省いて効率的にすることに、快感すら覚えていたのだが依頼先の人件費の無駄を省いたせいなのか、クビを切られた男にナイフで刺されて意識を失った……というところまで覚えているのだが、今の状況はまったく理解できない。
俺は状況を把握するためにキョロキョロと辺りを見渡すと、
「くっ……!」
頭の中に大量の映像が流れてきた。
ものごころ付いた頃から死ぬまでの『誰かの記憶』だ。
その中で一つ理解したことがある。
今、俺はイヴィル・ヴィルサレムに転生したことを理解した。
イヴィル・ヴィルサレムという名前は聞いたことがある。
『月は魔法と踊る』——略して『ツキオド』というゲームの中盤で出てくる悪役のキャラクター。
それも惨い死に方をする悪役だ。
「いや、まさかな」
「イヴィル様……何か不手際がありましたでしょうか……?」
俺の呟きにメイド服を着た少女が怯えた顔で俺に話しかける。
今、『イヴィル』と言ったよな。
やはりイヴィル・ヴィルサレムで間違いなさそうだ。
イヴィルは『月と魔法は踊る』というゲームの悪役キャラだ。
作中では公爵の貴族で高い魔力を持っている。
そのため、イヴィルは中盤の敵として登場していた。
高い魔力を活かし、作中では珍しい闇魔法の使い手と語られていた。
世間の目から見たら、闇魔法は最弱である。
しかし闇魔法は妨害や精神操作に優れている。
イヴィルは闇魔法の強みを生かして、学園編にてイヴィルは自分では闇魔法を用いてヒロインを洗脳しては、奴隷のような所業を繰り返した。
ただ、結果として月と魔法は踊るの主人公に断罪されたあげく、呆気なく牢屋にぶち込まれ、断頭台の上で処刑されて死んでしまう。
ゲームをプレイをしていた当時ではあるが、少しだけ癖が強い敵だったことは記憶にある。
とはいえ、主人公の前では中ボス前の前座くらいの強さだった。
だが、本当に残念なことがある。
それは死に際の顔だけがやたらとSNSで拡散されてネットではおもちゃにされたこと。
嫌われキャラだったことも相まって、最終的にはネタキャラの地位を築きあげてしまった。
……馬鹿馬鹿しい。そんな惨めに死ぬのは御免だ。
「いや、すまない。気にしないでくれ」
俺が目の前のメイドの少女に謝ると、
「え……? 今、なんと……?」
メイドの少女は目をまん丸に見開いて、驚いた表情を向ける。
「気にしないでくれ、と言ったんだが」
「し、失礼致しました!!」
「どうかしたか?」
「い、いえ……! なんでもございません!」
メイドの少女は慌てて頭を下げる。
そういえば、このメイドの名前はなんなのだろう。
俺はイヴィルの記憶から引っ張ってくる。
「アンナ。本当に気にしなくて良い。今は頭を上げてくれ」
「しょ、承知致しました」
アンナは恐れ恐れいった様子で頭を上げた。
俺は近くにあった鏡を見る。
俺の知っている死に際の顔よりも明らかに幼い顔立ち。
学園に行くまでに少なくとも数年の時間はある。
つまり、時間はある。
その間に準備をするのだ。
一切の妥協をしない。やるからには徹底的に。
そのための時間を無駄にしてはいけない。
「アンナ。俺は今から修錬場に向かう。ついてこい」
「えっ!? 修錬場ですか!?」
アンナは目を見開いて信じられないといったような表情を俺に向ける。
俺はアンナの驚きを無視して立ち上がる。
「い、イヴィル様!! お、お待ち下さいませ……!! 本当にどうなされたのですか!?」
俺はイヴィルの記憶を頼りに俺は修錬場に向かう。
アンナは俺の2歩後ろの距離を保ったままついてきていた。
とはいえ、家の広さはまるで城だった。さすがには驚きを隠せない。
さすが貴族。公爵は伊達じゃないんだな。
いくらでも強くなれる環境は揃っているということだ。
俺は迷うことなく修錬場に辿り着いた。
「おや……イヴィルお坊ちゃまではありませんか?? こんなところに何をしに??」
俺に対して、深紅の赤髪をポニーテールのように束ねた美女が俺に話かけてくる。
彼女はフラム。公爵家お抱えのA級魔法使いだ。
魔法を主体とするこの『月と魔法は踊る』にA級の魔法使いはかなり優秀な部類らしい。
そんなフラムは魔法の兵士を育成する立場でもある。
「今から魔法の練習しようと思ってな。構わないか?」
今のところ、フラム以外に人はいない。
それならば、思う存分練習できる。
「は?」
フラムは驚いた顔をする。
こいつは何を言っているんだ? そう言いたげな目線だった。
「何か問題でも?」
俺がフラムに尋ねると、
「問題も何も……イヴィルお坊ちゃまは『魔法を使ったことがない』じゃないですか」
呆れたような表情を浮かべた。
イヴィルはヴィルサレムでも落ちこぼれの設定だった。
ただ公爵家という権力をコネを使って入学をして、月と魔法は踊るの世界では好き勝手暴れたという設定になっている。。
という設定になっている。
「そうだな。たしかに使ったことはないが、今から使えれば問題ないだろう?」
「何を仰って……」
俺はフラムの言葉を無視して、修練所にある白い的に向かって手を掲げる。
俺は右手を掲げて紫の魔法陣を展開する。
「なっ!? まさかそれは闇魔法……?」
「ダークフレイム」
紫の魔法陣からサッカーボールほどの大きさをした黒い火球が飛び出る。
サッカーボールほどの大きさをした黒い火球は的に当たると爆散した。
「つ、使えたのですか? それに、その魔法は……」
フラムは驚いた表情を俺に向ける。
実際イヴィルは闇魔法を使えるのだ。
使えたけれど隠していた。
理由は単純で、闇魔法は忌み嫌われるのだ。
勇者は光魔法を使う。
それでは反対の属性に位置する闇魔法は?
くだらないとは思うが、元来のイヴィルはメンツ的なところも気にしていた。
それに元々ヴィルサレム公爵家は魔法の才に恵まれている。
その中でもイヴィルは闇魔法にだけ異常な適正がある。
というよりも、イヴィルは闇魔法しか使えない。
悲しいことにイヴィルは闇魔法しか使えない特異体質なのだ。
しかも本来の闇魔法は火力の出せないハズレ属性扱い。
故に使い手はほとんどいない。
月と魔法に踊るという設定でも、イヴィルの記憶でも内容は変わらない。
だからすんなりと闇魔法であればすんなりと使えた。
「少なくとも、魔法を使えることは証明できたかな?」
「し、失礼致しました!!」
闇魔法は上手く発動できたみたいだ。
だが、それだけでは意味がない。
「フラム。聞いてもいいか」
「なんでしょう?」
フラムは仕方ない様子で聞き返す。
おそらく俺のことはあまり好きではないだろう。
「複数の魔法陣を展開させて魔法を打つことは可能か?」
俺の問いにフラムは眉を寄せて答える。
「いや、まぁ可能ですが……ただ、展開は安定しないですし、普通に魔法を撃つのに比べて火力はありませんが」
「可能ならば問題ない」
俺はフラムの問いを無視して再び魔法陣を展開する。
今度は魔法陣に魔力を送り出さずに手のひらに集中させる。
限界まで溜まった感覚を頼りに俺は先ほどと同じ魔法を繰り出した。
もちろんただ打ち出すだけじゃない。
俺はこの異世界にあったバグを試してみる。
『複数展開』
俺は頭の中でコマンド画面を想像して、
ファイアのボタンを連打するように押す。
すると、俺の回りに5つの紫の魔法陣が展開される。
「ダークファイア」
5つの紫の魔法陣からサッカーボールほどの黒い火球が勢いよく飛んでいく。
俺が放った5つのサッカーボールほどの大きさをした黒い火球は全ては的を木っ端みじんにした。
「は?」
フラムは信じられないと表情をして俺に問う。
「ど、どうしてその数を展開できるのですか!? B級の魔法使いでも3つが限度なのですよ!?」
「何を言っているんだ? 今、フラムが理論上可能だと言ったではないか」
「いや、しかしこの数の魔法陣を展開するのは聞いたことが……! いえ、失礼致しました」
フラムは頭を下げる。
「これまでの非礼をどうかお許し下さい。処罰がお望みであればいくらでも」
フラムは俺にそんなことを言う。
だが、そんなことはどうだっていい。
「悪いと思っているのなら、明日から俺に魔法を教えろ。今よりも強力な魔法が必要なのだ」
「承知致しました。しかし……闇魔法よりも他の属性の魔法の方が……」
フラムは闇魔法が最弱と言いたいのだろう。
とはいえ、わざわざ俺が闇魔法しか使えないことを言うこともあるまい。
「まさか闇魔法は弱いから止めろとは言わないよな? やるからには上を目指したいのだ」
難色を示すフラムに俺がぶっきらぼうに答えると、
「……承知致しました。それでは明日、修練場においで下さいませ。私は一度明日の準備に取り掛かます故」
「そうか。よろしく頼むぞ」
「はっ!」
フラムは去っていった。
俺はイヴィル・ヴィルサレムに転生したのだ。
月と魔法は踊るというゲームを通してではあるが、こいつの強さを俺は知っている。
俺はクソみたいなバッドエンドを回避するためなら、なんだって利用する。
そのためには、まずはできることをする。
そうして俺は一人修練所で、魔法の特訓を続けるのであった。