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今日は久しぶりにカイルが住まう神殿に来客者が訪れている。
新緑色の瞳を持ち、長髪の髪を後ろに束ねている彼の頭には、親神から受け継いだヤギの角が生えている。高身長の体は線が細く、顔はとても神経質そうな印象だ。つり目がちな目元は意地が悪く見え、口を開けば罵詈雑言しか言いそうに無い。無いのだが……
「ねぇー頼むよセナァ、カイルに会わせてくれよ」
今にも頭痛薬をガブ飲みしそうな蒼白の顔をして、男は可愛い仕草をしてそう言った。
「無理です。カイル様は今大変お忙しいのでお会い出来ません。先にご連絡を頂かないと予定を開ける事も、そもそも無理です」
神殿に帰宅したばかりの、着替えはかろうじて済ませただけのセナが困り顔で告げる。
「まーた奥さんとよろしくヤッてるだけだろう?どうせ。よし、一時間待つから、スッキリしてから私に会ってよ!」
いい事思いついた!と言いたげにパンッと手を合わせたが似合っていない。言葉の内容も内容なので、セナは額を押さえて息を吐いた。
「サキュロス様、今カイル様は別件で、本当にお忙しいのです」
「マジか!まさか仕事?何か行事とかあったっけ?この時期」
口元に指を当て、少し目線を上にやる。幼子がやると愛らしい仕草なのだが、サキュロスがやるとサッパリだ。『何故お前がそれをやる⁈』とセナがツッコミたくなるレベルで。
「……仕事とはまた違うのですが、とにかくお忙しいのです。私もまだ報告したい事が残っていますので下がらせて貰います」
「えぇぇ、セナも忙しいの?」
「はい、かなり。とっても」
「んー……じゃあ泊まる!暇になるまで泊まる!それならいいだろう?カイルが会えるまでいくらでも待っちゃうよ、時間は無限だからね」
そう言ってサキュロスがパチっとウィンクしてみせた。だが——以下略。
彼の提案を受けて、セナが少し困り顔になった。独断で決めてもよいのか、と。だが神子達は揃いも揃って自己中心的で我儘だ。セナの主人であるカイルは比較的温厚で、他よりかは話の通じるタイプなのだが、サキュロスは違う。典型的な自己中我儘神子様だ。帰れと追い返したとしても、勝手に庭で野営をしてでも自分の望みを突き通すタイプなのだ。
「……わかりました、では少々こちらでお待ち頂けますか?すぐにエレーナを呼び、部屋の用意をさせましょう。ですが、いいですか?サキュロス様。カイル様に会うのは、カイル様のご都合に合わせて下さい。約束出来ないのなら、貴方様が神子だろうがなんだろうが強制送還します」
セナがキッと神子を睨みつける。記憶を持ったまま転生を繰り返す者ならではの貫禄を見せ付ける、素晴らしい眼差しだ。
気合い負けしたサキュロスが気圧されながら何度も必死に頷いた。
「うん!約束するよ、セナ。あーでも逢いたい人がいるんだ。その人にさえ逢えれば、ぶっちゃけカイルはいつでもいいかなーなんて」
全く顔面に似合わぬ悪戯っ子の笑みで、サキュロスはニヤッと笑ったのだった。
深い深い森の中。
途中から多少は気を付けてはいたのだが、それでも先程までの戦闘が原因で倒木がかなり目立つ道程をロシェル達が街に向かい歩いている。
黒竜が生まれ変わる前ならば、その背に乗ってさっさと帰る事も出来たろうが、小さくなってしまったアルはレイナードの肩に留まっている。戦いで疲れ切ったシュウはロシェルの首に巻きつき、スヤスヤと眠っていた。
『——んでだ、今更なのじゃが、お主ら、儂を探しておった様じゃが用向きは何なのじゃ?もしかして……カイルのお迎えか?そうなのか?』
アルは期待に満ちた目を、レイナードの隣を歩くロシェルに向けた。長くてトゲのある尻尾を犬みたいに振っている。
「……えっと」
キラキラした黒い瞳を向けられては『お迎えではない』とはとてもじゃないが伝え難い。『鱗だけ欲しい』とハッキリ言う気にもなれず、ロシェルはとうとう「そんな感じです!」と言ってしまった。
レイナードが場の空気を読みながら、説明を追加する。
「黒竜の鱗が必要らしくてな、カイルに会って、直接彼に分けて欲しいんだ」
カイルに会いたがっていたアルを放置していたのだ。そのくらい勝手にこちらが決めても良いだろうとレイナードは考えた。
『儂の鱗がか?また古代魔法でもやるのか?相変わらず悪趣味じゃのう、あんな面倒なもの。前に会った時なんぞ、魔法具の材料にすると言って散々攻撃魔法をぶっ放し、儂の生爪を剥いで行った様な奴じゃが、今回は鱗でいいとは……優しいのう』
アルは嬉しそうに昔話を語っているが、ロシェル的には父の悪行に心が痛んだ。
「す、すみません……父がご迷惑をおかけしてしまって。……今回鱗が必要になったのは、私のせいなのです」
杖をギュッと握りしめたロシェルが気まずそうに肩を縮める。そんな彼女の肩に手を乗せ、レイナードが気遣う様に撫でた。そんな二人を見て、アルが首を傾げる。
『まぁ理由なんぞ、そんな瑣末事はもう気にせんわ。カイルにやっと逢えると思うと、心が踊るのう』
嬉しそうにしているアルの姿を見て、レイナードが「良かったな、気にしてないそうだ」とロシェルの耳元で囁く。彼的には内緒話をしたかっただけなのだが、彼女の方は耳に感じる熱い吐息に背を反らせた。
『しかし、カイルが嫁をもらっていたとはのう。式に呼んでくれても……あぁ無理じゃな、契約が無いと森からも出られんのじゃったわ』
一転してアルが項垂れる。そんな彼から、今度はサビィルが気まずげに視線を逸らした。
アルと交わした言葉をカイルがスッカリ忘れているだろう事は察しがついているので、一途なアルの思いは見ていてとても重い。今それをアルに教えるべきではないと感じたサビィルは、『ウチの主人が申し訳ない!』と心で詫びるだけに留めた。
「色々面倒なんだな、竜である事も」
『まぁそうじゃな。何と言ってもこれは所詮“呪い”じゃしな。お主との契約により森を出られる様になったとしても、腹が減るから結局は定期的に森に戻って、魔物を喰わねばならんしのう』
「その時は俺も付き合おう」
レイナードの言葉にアルは喜び、彼の頰に顔を擦り付けた。
「その時は私も同行したいわ、いいかしら?」
『カイルの娘もか!賑やかになるのう』
雑談をしながら、和気あいあいと二人と三匹は神殿へ戻って行く。 魔物の邪魔が無いので帰りはとてもスムーズに進めた。
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