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「そういう問題じゃ――」
「――あーあ。いいなぁ。私も恋愛したいなぁ」
秘書らしからぬ、膝に肘を立てて頬杖をつく。
「すればいーだろ」
「めんどくさーい」
「なんだ、それ」
「男は面倒臭いもの。そか! 女と恋愛すればいいのか。私、るりちゃんとならイケるかも」
「はぁ!?」
「女を顔やスタイルでしか評価しない馬鹿な男なんかより、私の方がよほどるりちゃんを理解して可愛がってあげられるもの」
黎琳は以前から、自分の容姿や職業に釣られて寄って来る男どもに辟易していた。
その上、幼少からの付き合いで気心の知れた誉ですら、顔とスタイルのいい女をとっかえひっかえだ。
誉が見た目にこだわるのは、黎琳を意識してるからだと思うけど……。
とにかく、面倒臭くしているのは自分たちだということに、二人だけが気づいていない。
「とにかく! 凱人ジュニアがるりちゃんのお口に合わなかったら教えてね? 私が優しく慰めてあげるから」
美人秘書の本気の微笑みに、背筋が伸びる。
単なる噂かと思って確認したことはなかったが、黎琳は男も女もイケる口かもしれない。
黎琳の、手入れの行き届いた爪が乾さんの肌に食い込む姿を想像し、身震いした。
「黎琳。今の、誉には――」
「――くそっ! 何なんだよ!!」
バンッとドアが開くと同時に誉の盛大な悪態が空気を震わせた。
俺と黎琳はゆったりとソファに座り、缶コーヒー片手に彼を見る。
苛立ちからか、暑さからか、ゆらゆらと湯気の筋が見える気がする。
何にしても、相当な不機嫌で、ずかずかと部屋を進み、上質な革張りのリクライニングチェアに腰かけた。
「俺は二時間も車に缶詰だってのに、お前らは優雅にコーヒータイムか!?」
完全なる八つ当たりだ。
「八つ当たりしないでください」
言わなきゃいいのに、黎琳が言った。かなりぶっきら棒に。
そして、少し乱暴に缶をテーブルに置くと、立ち上がり、冷蔵庫から三本目の缶を出した。それを、誉の正面に置く。
「早く出ろと言ったのにハルカちゃんとくっだらない長電話をしてギリギリの出発になり、私の言う通りにしていれば事故前に通過できていたはずの裏通りで立ち往生し、予定していた打ち合わせもできず、何の生産性もない無駄な時間を過ごした挙句、全く非のないどころか必要なかったリスケ作業を押し付けた秘書に八つ当たりするような俺様下半身バカな専務様、お疲れさまでした!」
秘書殿の気迫に、さっきまでの横暴さはどこへやら。
誉は目をパチクリさせて、仰け反った。
「専務がお帰りになられたことを報告して、休憩に入ります」
「はい……」
「十三時三十分からの開発会議資料はこちらです」
「アリガトウゴザイマス」
「ではっ!」
自慢の黒髪を揺らし、モデル時代に培った品のあるウォーキングで部屋を出て行く黎琳。
残された専務殿の八つ当たりの標準が俺に向くのが、長年の経験と空気で分かった。
「な――っんだよ、あれ! 生理か! 二日目か! 更年期か!!」
件のハルカちゃんにはこんな怒り狂った姿を見せたことはないだろう。
見せたら最後、どんなに見た目と肩書が魅力的でも、ドン引きだ。
お互いの本性を知っても一緒にいられるなんて、お互いだけだと早く認めたらいいのに……。
この二人はこの二人で長年の相棒で、黎琳の言葉を借りると、誉の下の棒で繋がった間柄。
誉ジュニアがお口に合った、だったか?
とにかく、十年くらい前までの十年間くらい、二人は恋人だった。
今と調子は変わらなかったが、それでも確かに愛し合っていて、それを隠しもしなかった。
それが、なぜか突然別れ、同時に、営業部にいた誉は経営戦略部に異動し、黎琳はモデルを辞めて奥山商事の秘書課に入社した。
あの時は、親族一同で本当に驚いた。
結局、事の真相はわからないまま、今に至る。
関係性の名称は変わっても、誉と黎琳は『相棒』でい続けている。
俺と乾さんは……?
仕事上の相棒としてもまだまだぎこちないのに、俺は彼女に異性としての好意まで持ち始めている。
相棒とは……?
俺は、黎琳への苛立ちを繰り返す誉に、彼を待っていた理由を述べた。
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