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雨が降っていた。
空から落ちる雨は黒く濁っている。
《黒雨》
この世界では、黒雨が降る場所に“異能災害”が起きる。
人を食う化け物。
街を壊す怪物。
人の脳を狂わせる能力者。
それらを倒すために存在するのが、《特務局》だった。
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!」
少年が全力で走っていた。
赤い髪。
細い体。
制服の上に雑に羽織った黒コート。
名前は、橘 冬真(たちばな とうま)。
十七歳。
特務局訓練生。
そして現在――
「なんで初任務で災害級が出てんだよォォォ!!」
全力逃走中だった。
後ろから巨大な怪物が追ってくる。
四本腕。
顔がない。
異常に速い。
しかもデカい。
ビル三階分くらいある。
「冬真!! 右!!」
路地の上から声が飛ぶ。
冬真が反射的に飛び退く。
次の瞬間。
ドゴォン!!!
怪物の腕が地面を砕いた。
「っぶな!?」
屋根から飛び降りてきたのは、黒髪の少年だった。
眠そうな目。
ピアス。
片手に短刀。
「お前さぁ」
朝霧 湊(あさぎり みなと)は呆れた顔をする。
湊:「毎回突っ込みすぎなんだよ」
冬真:「うるせぇ!お前が援護遅いんだろ!」
二人は背中合わせになる。
怪物が唸った。
空気が震える。
冬真は汗を拭う。
「……どうする」
湊:「殺す」
その瞬間。
湊の影が広がった。
黒い影が地面を走り、怪物の足に絡みつく。
異能――《影縫い》
相手の動きを止める能力。
湊:「今!!」
冬真:「おらァ!!」
冬真が拳を振り抜く。
拳に青い光が集まる。
ドゴォォォン!!!!
怪物の体が吹き飛んだ。
壁に激突する。
「よっしゃ!!」
湊:「まだ死んでねぇ」
湊が言った瞬間。
怪物の肉体が再生した。
冬真の顔が引きつる。
「うわ最悪」
怪物が咆哮する。
次の瞬間。
――空気が変わった。
ピタリ、と。
怪物が止まる。
冬真も、湊も動きを止めた。
路地の奥。
誰かが歩いてくる。
コツ、コツ、と足音が響く。
黒い傘。
長いコート。
無精髭。
男だった。
年齢は二十代くらい。
なのに妙に“大人”っぽい。
落ち着き方が異常だった。
「……なんだ、ガキか」
男は眠そうに言った。
怪物が震える。
明らかに怯えていた。
冬真はゾッとした。
この男、ヤバい。
本能で分かる。
男は怪物を見上げる。
「邪魔」
ボソッと言った。
次の瞬間。
怪物の体が、消えた。
爆発もない。
音もない。
ただ、一瞬で。
冬真は固まった。
「……は?」
湊も目を見開いている。
意味が分からない。
男はそのまま二人の横を通り過ぎる。
冬真は慌てて叫んだ。
「ま、待て!!」
男が止まる。
冬真:「……誰だ、お前」
男は少し考えてから答えた。
「灰崎 蓮司(はいざき れんじ)」
その名前を聞いた瞬間。
湊の顔色が変わった。
「……は?」
空気が凍る。
湊が短刀を握る。
「おい冬真」
声が低かった。
「下がれ」
冬真:「え?」
「早く」
冬真が困惑していると、蓮司は面倒そうにため息をついた。
「相変わらず短気だな、朝霧」
湊:「黙れ」
湊の殺気が跳ね上がる。
冬真は理解できなかった。
だが。
次の瞬間、湊が言った言葉で全身が凍る。
「――こいつが、迅(じん)を殺した」
冬真の思考が止まる。
迅。
一年前に死んだ、二人の親友。
特務局の同期だった。
明るくて、強くて、誰より仲間思いだった少年。
その仇。
それが、この男。
冬真の頭が真っ白になる。
だが蓮司は、驚くほど普通の顔をしていた。
「そうだっけ」
「……ッ!!」
湊が飛び出す。
影が広がる。
だが。
蓮司は避けない。
代わりに、ボソッと言った。
「左から行くな」
「――!?」
湊が反射的に止まる。
次の瞬間。
左側の建物が崩壊した。
ズガァァン!!!!
瓦礫が落ちる。
もし突っ込んでいたら死んでいた。
湊が息を呑む。
蓮司はポケットに手を入れたまま言う。
「考え無しに突っ込む癖、治ってねぇな」
湊:「……何が目的だ」
「別に」
蓮司は黒い雨空を見上げる。
「死にたくないなら、“敵を敵だと思い込むな”」
湊:「は?」
「あと」
蓮司は冬真を見る。
初めてちゃんと視線が合った。
その目は、不思議なくらい寂しそうだった。
「お前、迅のこと何も知らないままだな」
冬真の心臓が跳ねる。
「……どういう意味だ」
蓮司は答えない。
代わりに、ふっと笑った。
疲れたみたいな笑い方だった。
「まぁ、そのうち分かる」
次の瞬間。
姿が消える。
冬真が目を見開く。
「っ!?」
気配が完全に消えていた。
湊が舌打ちする。
「クソが……」
冬真は混乱していた。
親友の仇。
なのに。
どうしてあいつは、俺たちを助けた?
そして最後の言葉。
“迅のこと何も知らない”。
その意味だけが、妙に頭に残っていた。