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#和風ファンタジー
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巨大な鉄の塔みたいな建物の中を、冬真は無言で歩いていた。
頭の中がぐちゃぐちゃだった。
灰崎蓮司。
迅を殺した男。
なのに。
どうして助けた?
どうして敵なのに、アドバイスなんかした?
「おい」
隣を歩く湊が声をかける。
「さっきから顔死んでるぞ」
「そりゃそうだろ……」
冬真は頭を抱えた。
「いや意味分かんねぇって……。なんなんだよあいつ」
湊は少し黙ったあと、小さく言う。
「……化け物だよ」
その声はいつもより低かった。
湊:「特務局最強。災害指定能力者。単独で都市を潰せる」
冬真:「二十代だろ……?」
湊:「年齢とか関係ねぇんだよ」
湊はイラついたように前髪をかき上げる。
「強すぎる奴ってのは、たまにいる」
冬真は思い出す。
怪物を“一瞬で消した”光景。
攻撃ですらなかった。
まるで。
最初から存在してなかったみたいに。
冬真:「あいつの能力って何なんだ?」
湊:「知らねぇ」
冬真:「は?」
湊:「マジで誰も知らない」
冬真は目を丸くする。
「いやいや、そんなことある!?」
「あるんだよ」
湊は苦そうに言った。
「見た奴が、残らねぇから」
その時。
「おー、お帰り問題児共」
軽い声が飛んだ。
振り向くと、ソファにだらしなく寝転がる男がいた。
茶髪。
開けっぱなしの隊服。
口元のピアス。
チャラそう。
めちゃくちゃチャラそう。
「お前ら初任務で災害級引くとか運終わってんな」
「うるせぇ」
湊が即答する。
男は笑った。
「冷た。せっかく先輩が慰めてやってんのに」
この男は、九条 悠臣(くじょう ゆうしん)。
特務局第三部隊所属。
頭脳戦専門の能力者。
戦闘より、“相手をハメる”ことが得意なタイプだ。
つまり性格が悪い。
「で?」
悠臣は冬真を見る。
「灰崎蓮司に会った感想は?」
冬真は顔をしかめた。
「……なんか、思ってたのと違った」
悠臣:「どんなイメージだったん?」
冬真:「もっとこう……ラスボスみたいな感じ」
「あー」
悠臣は笑う。
「実際ラスボスみたいなもんだよ」
冬真:「笑えねぇって」
すると悠臣は、急に真顔になった。
「でも気ぃつけろよ」
「……?」
「灰崎蓮司は、“敵か味方か分からない奴”じゃない」
冬真が目を瞬く。
悠臣は続けた。
「あいつは敵だ」
ハッキリした声だった。
「ただ」
悠臣は細めた目で笑う。
「敵のくせに、たまに助けるから気持ち悪いんだよ」
その時だった。
ピピッ、と警報音が鳴る。
部屋の空気が変わる。
《緊急任務》
《第二区域にて能力者暴走》
湊が舌打ちした。
「休ませろよマジで」
悠臣は立ち上がる。
「行くぞ新入り」
冬真は拳を握った。
「……あぁ」
数分後。
第二区域。
そこは地獄だった。
道路が凍っている。
建物まで凍結していた。
真ん中には、一人の男。
長い白髪。
裸足。
目が虚ろ。
周囲には倒れた人達。
能力暴走。
感情が壊れて、自分の力を制御できなくなった状態だ。
「近付くなァァァ!!」
男が叫ぶ。
瞬間。
巨大な氷柱が飛んだ。
「危ねぇ!」
冬真たちが飛び退く。
ドゴォン!!
地面が砕ける。
「うわ威力高っ」
悠臣が眉をひそめる。
「しかも無差別かよ」
湊は短刀を構えた。
「冬真、右回れ」
「了解!」
冬真が走る。
すると。
暴走男がこちらを見た。
「来るな……来るな来るな来るなァァ!!」
氷が広がる。
冬真は歯を食いしばった。
速い。
避けきれ――
「右三歩」
声。
冬真の体が反射的に動く。
次の瞬間。
氷の槍が、さっきまでいた場所を貫いた。
「……っ!?」
冬真が目を見開く。
この声。
振り返る。
ビルの上。
黒いコートが揺れていた。
灰崎蓮司。
またいた。
「……あいつ」
湊の顔が険しくなる。
蓮司はフェンスに腰掛けたまま、つまらなそうに下を見ている。
まるで観戦してるみたいだった。
冬真は叫ぶ。
「なんなんだよアンタ!!」
蓮司は少し考える。
「通りすがり」
冬真:「絶対違うだろ!!」
その瞬間。
暴走男が蓮司を見た。
そして。
凍りついた。
「……ひ」
顔色が真っ青になる。
明らかに怯えていた。
蓮司は面倒そうに片手を上げる。
「別に殺さねぇよ」
暴走男が震える。
冬真は混乱した。
なんなんだ、この反応。
すると蓮司がボソッと言う。
「その能力、脳じゃなくて感情で制御してるだろ」
暴走男が固まる。
蓮司:「怒り抑えろ。じゃないと心臓止まるぞ」
「……え」
蓮司:「あと三十秒」
静かに言った。
次の瞬間。
暴走男の顔が青ざめる。
「な、なんでそれを……」
蓮司は答えない。
ただ。
「十七、十八、十九……」
カウントを始める。
暴走男がパニックになる。
「やめろ……やめろ……!!」
氷が暴走する。
周囲がさらに凍り始めた。
冬真が叫ぶ。
「おい!煽んな!!」
だが。
蓮司は止まらない。
「二十五」
暴走男:「やめろォォ!!」
「二十八」
暴走男の目に涙が浮かぶ。
「死にたく……」
「二十九」
次の瞬間。
男が力なく崩れ落ちた。
氷が止まる。
静寂。
冬真が呆然とする。
「……え?」
蓮司は立ち上がった。
「終わり」
悠臣が目を細める。
「能力解除を“自分で選ばせた”のか」
「暴走系は脅した方が早い」
怖すぎる。
冬真は本気で引いた。
だが次の瞬間。
蓮司がこちらを見る。
「冬真」
急に名前を呼ばれ、冬真が固まる。
蓮司は静かに言った。
「“信じたいもの”だけ見てると死ぬぞ」
「……は?」
「お前の親友みたいにな」
空気が凍る。
湊の殺気が爆発した。
「灰崎ィ!!」
影が走る。
だが。
もう蓮司はいなかった。
また消えていた。
冬真だけが、その場に立ち尽くす。
頭の中で。
さっきの言葉が何度も響いていた。
――お前の親友みたいにな。
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