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「それで、私に話したい事って?」
恵菜は、造形物を思わせる理穂の瞳に眼差しを突いていると、店員が恵菜の注文したホットコーヒーをテーブルに置いた。
彼女が店員に軽く会釈をした後、再び理穂に向き合う。
モーヴピンクのニットを着た後輩女子は、自分が可愛いと自負しているのか、俯き加減で胸元まで伸びた茶髪を一房掬い、指先でクルクルと遊んでいる。
何も発言しない理穂に、恵菜は早く帰宅したい気持ちが先走り、苛立ちが止まらない。
せっかくの週末なのに、なぜ元夫の不倫相手と、顔を突き合わせなければならないのか。
待つのもバカバカしくなった恵菜は、カップを口に運んだ。
徐に財布を取り出し、二人分のコーヒー代をテーブルに置く。
「あなたが、今から来てもらっていいですか? って言ったんだよね? だから私、ここに来たんだけど。何も話す事がないなら、帰っていいかな?」
彼女が立ち上がり、帰り支度を始めた時だった。
「えっ……恵菜センパイ……! 待って下さい!」
慌てて恵菜を引き止める理穂に、チラリと一瞥して、ゆっくりと椅子に腰掛けた。
「分かりました……。言います……」
理穂は膝の上で両手をギュッと握り、顔を伏せた。
恵菜に言うのを躊躇っているのか、しばらくの間、じっとしていると、フーッと長く息を吐き出している。
決心がついたのか、勢い良く顔を上げ、恵菜と視線をかち合わせた。
「恵菜センパイ。もう勇人センパイと…………会わないで下さいっ!」
「…………は?」
今まで出した事のない、低く冷酷な声が、恵菜の唇から零れていた。
勇人を寝取った後輩女子が、何を言っているのか。
離婚してから、恵菜は元夫には自ら会おうとなんて、一切していない。
勇人が、離婚後の恵菜の足取りをどうやって知ったのかは謎だけど、勝手に彼女の職場を突き止め、待ち伏せして会いに来ているだけだ。
正直、顔も見たくないし、迷惑以外の何者でもない。
しかも、先日は勇人の母と会って話をしているうちに、彼がマザコンだった事が発覚。
純に助けられた日、勇人は『恵菜。俺は諦めないからな……!』と言い捨てたけど、ハッキリ言えば、あの男とは、もう一生関わりたくない。