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第10話:影の工房
夜の市民区は、昼間の喧騒とは別の顔を見せていた。
明滅する看板の裏、誰も近づかない路地に、ひそやかな噂が流れていた。
「国家フォージャーは、裏で兵器を造っている──」
その情報を持ち込んだのは、痩せた青年だった。
名はセリオ。
青みがかった短髪に、煤で汚れた灰色の作業着を纏い、片方の目元には古傷が走っていた。
第三の眼は弱々しく光り、彼が未熟な民間のオーバーライターであることを示していた。
クオンは灰色の瞳を細め、静かに問いかける。
「……どこで、その噂を聞いた。」
セリオは唇を震わせ、声を潜めた。
「郊外の廃工場だ。表向きは閉鎖されたはずの場所で、夜な夜な光が漏れている。
あそこでは“人ではないトピオワンダー”が造られているって……」
クオンの脳裏に、師匠ライラの言葉が蘇る。
「管理できない未来……見えるか?」
もしそれが事実なら、国家は未来を守るどころか、自ら破壊を生み出していることになる。
翌日、クオンは噂の廃工場に向かった。
鉄鋼の壁に囲まれた巨大な建物は、昼間は沈黙していた。
だが夜になると、暗黒物質が揺らめき、内部から低い唸り声のような音が漏れていた。
その光景を陰から見張る人影があった。
長身の男、鋭い輪郭に黒い外套を羽織り、額の第三の眼が薄緑に光る。
彼の名はヴァロス。
国家直属のフォージャーであり、裏活動の中心人物。
黒髪を短く刈り込み、口元には常に冷たい笑みを浮かべていた。
「命は道具だ。秩序を守るために最適化すればいい。
だから私は造る……“兵器としての命”を。」
その声は重く、廃工場の壁越しに響くようだった。
クオンは灰色の瞳を強く光らせる。
命を守る正義と、命を造る狂気──二つの思想の衝突は、もはや避けられないところまで迫っていた。
街では相変わらず、子どもたちが配合ペットを抱いて笑い、親は未来修正の通知を受け取って安堵していた。
社会は、何も知らない。
その裏で、命は「救われ」「売られ」「兵器として造られて」いた。
クオンは静かに息を吐いた。
「……師匠。俺は、ここで何を守ればいい。」
廃工場の光が夜を裂き、クオンの孤独な影を長く伸ばしていた。