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第12話:追放の審議
灰色の議場。
高い天井から吊るされた光源が、無機質に広間を照らしていた。
そこに並ぶのは、国家管理職のトピオワンダーたち。
全員が赤の制服を纏い、額の第三の眼は鋭く光を放っている。
その光景はまるで「秩序そのもの」が人の形を取ったようだった。
中央に立たされていたのはクオン。
灰の旅装束に灰色の瞳、淡く光る第三の眼。
その姿は議場全体の冷たい空気に包まれても揺らぐことはなく、ただ静かに立ち続けていた。
「クオン=オーバーライター。」
声を発したのは管理職代表の一人、長身の男──オルフェン。
鉄色の短髪を持ち、瞳は冷たい青緑。
額の第三の眼は常に強い光を放ち、圧倒的な威圧感を漂わせていた。
「貴様の“命救出”の行為によって、国家システムに歪みが生じた。」
議場の壁面に映し出されたのは、未来予測システムのエラー画面だった。
本来なら消えているはずの少年の名前が、システム上に「未定義」として残っていた。
そのエラーは都市の未来計画に波及し、交通網や医療の予定すら狂わせていた。
「命を救うことが、社会を壊す原因になっている。」
オルフェンの声が響く。
別の議員──中年の女性、イレナが口を開いた。
短く切り揃えられた茶髪に灰色の瞳、薄い灰衣をまとった彼女は、静かながらも鋭い視線をクオンに投げる。
「あなたの行為は“異端”そのもの。国家の思想に背く存在を、このまま放置することはできない。」
議場の空気は重く、他の管理職たちがざわめきを広げる。
「抹消対象とするべきだ」
「追放に留めるべきだ」
「民間に流せば、さらなる混乱を招く……」
クオンは黙ってその声を聞いていた。
灰色の瞳は静かに光り、口を開く。
「俺が救ったのは、人間だ。数字ではない。」
その言葉に、一瞬議場が静まり返る。
だが次の瞬間、怒りにも似た声が飛んだ。
「感情を持ち込むな! 国家は秩序で成り立っている!」
市民の生活はその秩序に守られていた。
広場では今日も未来修正の結果が放送され、人々は何の疑問もなくそれを受け入れている。
「消された事故? そんなの最初からなかった」
「上書きすればすべて解決する」
人々の会話は無邪気だが、その背後で命は無数に切り捨てられていた。
議場に戻り、オルフェンが低く告げた。
「クオン、お前の存在は秩序を揺るがす。追放処分を検討する。」
クオンはわずかに目を伏せた。
孤独と静けさの中で、彼の心にはひとつの思いだけが燃えていた。
「師匠を探す。この正義を、貫く。」
灰色の瞳が再び輝いたとき、議場の冷たい光さえ揺らいで見えた。