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第3話 扉を開けて
次の日、梨柚は学校に行かなかった。いや、行けなかったのだ。敵しかいないあの教室に行くことなんて、できるはずがなかった。それがどうしようもなく悔しくて、梨柚はその日は何も出来なかった。自分の部屋に閉じこもって、声を殺して泣き続けた。
その次の日は、重い足取りで、どうにか学校へ向かった。校門の、「櫻葉中学校」の文字を見ると、胸がズキズキと傷んだ。震える手を必死に抑えて、教室のドアを開ける。
ガラガラ……..
みんなが一斉に梨柚を見た。
教室の奥でクスクスと笑う声が聞こえる。恋歌達だった。
梨柚は、足がすくむのを堪えて、自分の席に座り、俯いた。
何分そうしていたか分からない。梨柚にとっては地獄のように長い時間だったが、親友だったはずの澪那も、その他の子も、誰も話しかけてくれることは無かった。
教室に、担任の鈴木(すずき)先生が入ってくる。そのままホームルームが始まって、梨柚は何とか気まずさを耐え抜いた。
1時間目が終わって梨柚が1人俯いていると、
「なぁ」
と、頭上から声が降ってきた。
梨柚がビクッと肩を震わせて顔を上げると、そこには栲が立っていた。
梨柚の心臓が跳ね上がった。恋歌達に見られたら、変な勘違いをされるかもしれない。
「何?」
梨柚はできるだけ冷たい声で返した。鋭い目で、栲を睨みつける。
「放課後、話したい。裏庭で」
短くそう言って、教室を出ていった。
梨柚は固まって、動けない。
心臓は、まだドクドクと暴れ回るように動いていた。冷や汗をかいた体をぎゅっと抱きしめる。会話が一瞬で終わった。良かった。
「なんなの。ムカつく」
声が聞こえて、息を呑んで振り返る。恋歌が、こっちを睨んでいた。
梨柚の中で一瞬、時が止まった。恋歌の顔から、目が離せなかった。
だって。
恋歌の目が、すごく……
泣きそうだったから。