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縄で腕を縛られたまま、後ろから強く引かれ、俺はマットの真ん中に転がされた。
「ほら、全員から見えるようにしろよ」
輪が少し広がり、視線の矢が一斉に刺さる。無言で見下ろすやつ、口元だけ笑うやつ、スマホ越しにじっと構えるやつ。
誰かが用具室から大きなビニールコーンを持ってきた。
「頭にかぶせたら面白くね?」
押し込まれた瞬間、息がこもり、周囲の笑い声が籠った音に変わる。
暗い視界の中、突然、硬いバスケットボールが脇腹に叩き込まれ、反射で身体が跳ねた。
「お、動いた動いた。もっとやれ」
縄を握る手が強く引き、俺の体勢を固定する。
次はバレーボールが顔面に転がり込み、鼻に鈍い痛みが広がった。
見えないから、いつ来るかわからない。
それが余計に怖く、全身が強張る。
「おーい、次、飛び箱の踏み台で押してみろよ」
踏み台がゴロリと近づく音。
ドン、と肩に重みが乗る。呼吸が浅くなり、耳鳴りが広がる。
その間も、見物している連中は何も言わず、ただ笑いを押し殺す音だけを漏らしている。
その無言が、殴打よりも冷たく皮膚を締め付けた。
縄を解かれた瞬間も、逃げ道なんてなかった。
体育館の端に押しやられると、もう数人が待ち構えていて、手に持ったボールやバドミントンのラケットをわざとらしく構えていた。
「動物園の猿ってさ、こんな感じだよな」
その言葉と同時に、ラケットのフレームが太ももを打ち抜く。乾いた音と熱のような痛み。
踏み出そうとした足元に、バスケットボールが滑り込んできてバランスを崩す。転びそうになった俺を、すかさず後ろから突き飛ばす手。
ぐらついた拍子にマットの角で膝を打ち、思わず顔をしかめると、
「ほら、そうやって“反応”するから面白いんだよ」
と、低く笑う声が落ちてきた。
遠巻きに見ているやつらは、笑い声も言葉もなく、ただ冷ややかな視線だけを投げ続ける。
その視線は、殴られる痛みとは別の、もっとじわじわと皮膚を内側から裂くような感覚を運んできた。
「お前の役目ってさ、こうやって俺らのストレス吸い取ることだろ?」
肩をがっしり掴まれ、もう一度中央に引き戻される。
その言葉に反論なんて浮かばない。ただ空気が、そう決めつけてしまっている。
俺が立っているだけで、誰かの手が何かを投げつけ、何かを押し付け、何かを奪っていく。
それが当然で、当たり前で、俺がここに存在する理由みたいに扱われる。
その構造から逃げられないことだけが、はっきりと分かっていた。