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放課後の相談室。 椅子に腰かけた少女は、膝の上で手を握りしめていた。
「……彼のことが好きすぎて、怖いんです」
切り出した声は、かすれて震えていた。
「一日連絡がないだけで、“嫌われたのかも”って不安になる。既読がつかないだけで、頭が真っ白になる。……こんなの、普通じゃないですよね」
蓮司は机に頬杖をつき、にやりと笑う。
「まあ、病気ってほどじゃないな。……ただ、“依存”ってやつだな」
少女は顔を伏せたまま、かすかに頷いた。
「彼がいなきゃ、生きていけない気がするんです。もし離れられたら、私なんて空っぽで……何も残らない」
「へえ」
「……笑わないんですか?」
「笑ってるだろ、今」
確かに蓮司は口元だけ笑っていた。だが目は、妙に冷ややかで鋭かった。
「言っとくけどさ。“彼がいないと生きていけない”ってのは、ただの幻想だ。生き物は勝手に生きる。死ぬときは恋人がいてもいなくても死ぬ」
「……でも、そんなふうに割り切れなくて」
「割り切れないから苦しいんだろ」
少女は唇を噛んだ。
蓮司は軽く息を吐き、肩をすくめる。
「依存ってな、要は“自分の存在価値を他人に預けてる状態”なんだよ」
少女の指が強張る。
「……」
「つまり、お前が“好きでいてもらえなきゃ自分は空っぽ”って思ってる限り、そいつに首根っこ掴まれてるのと同じ」
「……そんなの、どうしたら」
「簡単な話だ。預けなきゃいい」
「……え?」
「自分の価値を、自分の手元に戻せってこと。……誰に愛されなくても、最低限“これが私”って言えるもんを持ってりゃ、恋人がいなくても立ってられる」
少女は小さく首を振った。
「……そんな強さ、私にない」
蓮司は笑った。
「強くなくていいよ。ただ、“依存してる自分”をちゃんと自覚して、そいつを飼いならすことだ」
「飼いならす……」
「そう。完全に消そうとするから無理が出る。依存したがる自分を認めつつ、“ここまでは許す、ここから先はやばい”って線引きするんだよ」
少女は黙り込んだ。けれど、その表情に少し考える色が宿っていた。
「……それができたら、もっと楽になりますか」
「楽になる。というか、“相手に潰されずに済む”な」
立ち上がるとき、少女はかすかに微笑んだ。
「……飼いならす、か。ちょっとやってみます」
ドアが閉まったあと、蓮司は独りごとのように呟いた。
「――依存なんて、誰にでもある。問題は“飲み込まれるかどうか”だけだ」