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放課後の相談室。 ドアを開けて入ってきた女子は、鞄を抱きしめたまま落ち着かない様子だった。
「……あの、ちょっと相談いいですか」
「おう。だいたいここ来るやつは“ちょっと”じゃ済まないけどな」
蓮司は椅子にふんぞり返り、片手をひらひらさせる。
「好きな人とLINEしてるんですけど……返信、早すぎると変ですか?」
「……あー、出たな。“駆け引き気にしすぎ族”」
女子は頬を赤くして小声になる。
「だって……本当はすぐ返したいんです。けど、すぐ返したら“重い”とか“暇なのかな”とか思われそうで……」
「で、どうしてんの?」
「……打ってから三分は待ってます」
蓮司は吹き出した。
「なんだよその律儀さ。砂時計アプリでも入れてんのか」
「そんなことしてません!」
「いや、でもだいたい三分って微妙すぎだろ。既読スルーするほどでもないし、すぐ返すほどでもない。……それ、ただの中途半端じゃね?」
女子はむっとした表情になる。
「……中途半端でも、悩むよりマシだと思ったんです」
蓮司は頬杖をつき、にやりと笑う。
「いいか。返信が早いのを“重い”って思うやつは、そもそもお前に興味ない。逆に、返事が遅いと“脈ナシかも”って勝手に不安になるやつもいる」
「……じゃあ、どうしたらいいんですか」
「簡単。好きならすぐ返せばいい。……駆け引きなんて、結局は相手によって変わるんだから。テクニックで誤魔化そうとしてもバレる」
女子は黙り込み、うつむいたままスマホを握りしめた。
「……でも、もし“必死すぎ”って思われたら……」
「そんときはそれまでだろ」
あっけらかんとした蓮司の声に、女子は顔を上げた。
「……え?」
「相手がそれで冷めるなら、最初から大事にしてくれるやつじゃなかったってことだ。……“必死だな”って思われても、可愛いって思うやつは思う」
女子はしばらく呆然としたあと、ふっと笑った。
「……なんか、考えてたのバカみたい」
「バカでいいんだよ。恋愛なんてバカになったやつの勝ちだ」
帰り際、彼女はスマホを見つめながらつぶやいた。
「……今度はすぐ返してみます」
蓮司は手を振りながら、軽口を残す。
「おう。スタンプでもいいから投げとけ。三分悩むよりよっぽど伝わるからな」