第22話:赤いマークの野菜
スーパー
夕暮れの街。
大和国のスーパーには「ヤマト認証マーク」のついた野菜がずらりと並んでいた。
赤い円のシールが貼られていない商品は、すべて棚から撤去されている。
まひろは、淡い水色のパーカーに濃いベージュのハーフパンツ。首には小さなタオルを巻き、かごを両手で抱えていた。
棚に残った白菜を見つめながら、無垢な声を出す。
「ねぇミウおねえちゃん……なんでマークがない野菜は売っちゃいけないの?
これ、ぜんぜん普通に見えるのに……」
隣のミウは、薄紫のブラウスに白っぽいロングスカート。髪をゆるくまとめ、耳元でイヤリングを揺らしながら、ふんわりと笑った。
「え〜♡ だってマークがついてないと“安心”できないでしょ?
ヤマト認証は、大和国が未来を守るっていう約束なんだよぉ♡」
コメント欄には「認証大事!」「赤いマーク=安心」「未来の食卓ありがとう」の声が流れた。
老人の声
店の隅では、年配の男性が紙袋を握りしめていた。
彼の服は色あせたシャツに古びた帽子。手には小銭が握られていたが、レジは受け付けない。
「これまでの野菜で十分食べてきたのに……」
彼の言葉は小さく、すぐに背後の警備ドローンが近づいてきた。
「不適切な発言を確認しました。記録します」
その映像はすぐにネット軍のデータベースに送られる。
無垢とふんわり同意
まひろはかごを抱えたまま、瞳を揺らして言った。
「ぼく……ただ“普通の野菜も食べられるんじゃないかな”って思っただけなのに、全部マークつきになっちゃった……」
ミウはイヤリングを指で軽くつまみ、やわらかな笑みを浮かべた。
「え〜♡ でもその方がいいんだよぉ。
みんなが同じマークの野菜を食べれば、未来も一つにまとまるんだから♡」
コメント欄は「そうだ!」「未来は赤いマークで守られる」「安心ありがとう」で溢れていた。
結末
暗い部屋で、緑のフーディを羽織った**Z(ゼイド)**がスーパーの監視映像を眺めていた。
画面には赤いマークのシールが自動で貼られる様子が映っている。
Zは低く笑った。
「食卓は記憶だ。
赤い印を貼るだけで、人は“安心”を食べたと思い込む。
未来なんて、胃袋から書き換えられる」
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