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夏休みに入って三日目。外はじりじりと照りつける太陽。
蝉の声が、まるで空気ごと焼いてしまうみたいに響いていた。
涼しさを求めて、私は町の図書館に来ていた。
冷房の効いた館内は、外の熱気を忘れさせるほど静かで涼しい。
ページをめくる音と、時々聞こえる咳払いだけが、ゆったりとした時間を刻んでいた。
背表紙を眺めながら文学コーナーを歩いていると、
ふいに、同じ本に伸びた別の手と、私の指先が軽く触れた。
「あ、ごめん」
顔を上げると、そこにいたのは翔太だった。
Tシャツに短パン、首にはタオルをかけていて、部活帰りらしい。
額にまだうっすらと汗が光っている。
「……翔太? どうしたの、こんなとこで」
「夏休みの宿題、読書感想文用の本探してたんだ」
そう言って、少し照れくさそうに笑う。
偶然の再会に、心臓が少しだけ早くなる。
「それ、私も読もうと思ってたやつ」
「じゃあ一緒に読む?」
気づけば、二人並んで閲覧スペースに座っていた。
本を開くと、ページからはインクの匂いがふわりと漂ってくる。
外の蝉の声が遠くに霞んでいくように、時間がゆっくり流れていった。
ふと横を見ると、翔太が小さくあくびをしている。
「眠いなら帰ったら?」
「いや、ここ涼しいし……もう少し」
その声がやけに柔らかく響いて、私は本の文字に視線を落としながら、
心のどこかが温かく満たされていくのを感じた。