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夏休みも中盤、午後の太陽はまだ容赦なく照りつけていた。部活を終えた私は、額の汗をタオルでぬぐいながら校庭を横切る。
グラウンドの端では、野球部が最後の声出しをしていて、その声が風に乗って響いてくる。
校門を出たところで、翔太が自転車を押しながら立っていた。
「おつかれ」
その一言だけで、さっきまでの疲れが少し軽くなった気がした。
「部活終わったの?」
「うん。もうバテそう。……アイス食べない?」
彼がコンビニの袋を差し出すと、中には棒アイスが二本。
冷たい袋が手に触れるだけで、ほっとする。
「ありがとう」
歩道の縁に並んで腰を下ろし、それぞれのアイスの袋を開ける。
一口かじると、甘さと冷たさが一気に体にしみわたった。
「こういうの、夏って感じするよな」
「うん。……でも、ちょっと溶けるの早い」
「じゃあ急いで食べな」
彼の横顔が、夕日に照らされて少し赤く見える。
その光がアイスの白さと混ざって、なんだか映画のワンシーンみたいだった。
食べ終えた棒を手に持ちながら、翔太が言う。
「来週、海行くんだって?」
「うん、クラスのみんなで。翔太も来るでしょ?」
「行く行く。……楽しみだな」
その言葉を聞いただけで、来週の海が少し特別なものに思えた。
蝉の声と、溶けかけたアイスの甘い香りが、夏の午後を包み込んでいた。