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『お餅』🌹
うわぁ
140
短編小説 9/? 2/? 1/?
「───ねえ。巳魈。」
視界に映る、2.7メートルの巨躯が微かに揺らめいた。
次の瞬間、空間そのものが悲鳴を上げるような速度で、巳魈の醜く枯れ果てた腕が振り下ろされる。刃で叩き切られた両の目から血を滴らせながらも、その一撃は正確に僕の胸を狙っていた。
ドッ!!
凄まじい衝撃波。僕はその一撃を、左腕受けていた。
肉が裂け、骨が軋む。脳髄を突き刺すような強烈な「痛み」が全身を駆け巡る。
さらには、それだけではない、気づかなかったが、いつの間にか無数の切り傷がついている。
「痛いな…。」
だが…。その痛みに比例して、僕の脳内にはドクドクと極上の生の実感が湧き上がっていた。
「あは……っ、いいね。上がってくる…!」
人生という名の消化戦における、至高のスパイス。僕がその痛みを五感で堪能した、その刹那だった。
胸元のボールコンパスが、ゴポゴポ、ゴポゴポと、まるで海の水泡のような音を立てて淡く瑠璃色に光り始めた。やがて、光だけが分離し左右に、まるで波打つ海面のように揺らめき、僕の内側の奥にまで、あの懐かしい「海の、心の友の聲(こえ)」が響き渡る。
「キィィィィ」
高く美しい鳴き声と共に、コンパスの光から一匹の影が、天高く登るようにして境内の空へと飛び出した。
薄い瑠璃色の半透明な霊体を持った、美しいイルカだった。
その瞳は深い瑠璃色。頭部から尾ひれにかけて、インクを水に溶かしたように色が薄くなっており、その尾ひれは、紅暗い闇の中でギリギリ視認できるほどの儚い薄さだ。コンパスに住まう3体のうちの1匹───空間にある美しいもの、面白いものに見境なく突っ込んでいく、気ままな相棒。
顕現したイルカは、僕の元に留まることなど最初から考えてもいないように、すぐさま僕の傍を離れ、面白そうな玩具を見つけた子供のように巳魈の攻撃の渦中へと突っ込んでいった。
『キュー!キュー!』
空中を海のように自在に泳ぎ回りながら、イルカは頭部にある「メロン」と呼ばれる器官から、霊的な超音波───【エコーロケーション(霊)】を放つ。
跳ね返る音波の波紋が、僕の脳内にもフィールドの地形や情念の数として、リアルタイムでフィードバックされてくる。
お陰で助かる。
どうやら、空中に舞い散る椛の葉は、ただの背景ではないらしい。イルカのソナーにより、無害なもみじと、触れれば肉を削ぎ落とす「殺傷能力のあるもみじ」、そして足元から這い出ようとする紅い「根」があるようだ。そして、イルカはその位置を完璧に嗅ぎ分けることができる。
安全な道(ルート)が見えてくる。痛みを受け欲望を満たしながら、けれども致命を避けることができる。
そんな、僕にとっての安全な道が。
僕はイルカが気ままに遊び回った後に残る、空気中の瑠璃色の光の波紋───その「軌跡」に従いながら、時に外れながら、
心友と共にフィールドを駆け抜けた。
普通なら躱しきれない紅色に彩る死の猛攻が降り注ぐ。
地面から、僕を逃がさないと根がはい出てくる。
そして、その合間を縫うように捻れた腕をもつあの御方は怒涛の攻撃を魅せてくる。
僕は髪の毛一筋の差で、致命傷だけを的確に避けていく。
肉体をかすめる微かな痛みの快感をギリギリまで貪りながら。
その時、空間を旋回していたイルカが、ピタリと動きを止め、巳魈をいや、周りの空気をじっと見つめた。
イルカのソナーは、巳魈の身体の周囲に隠された何かを捉えているようだ。巨大な情念の塊を。イルカは直感的にそれが「とびきりおもろいもの」だと思っているらしい。そして、それは僕にも共有される。
へえ……あそこに、そんなに面白いものが隠されているんだ?
楽しいな。
イルカが指し示している「おもろい塊」の正体を力ずくで確かめるため、今度は最小限のダメージを受けながら、巳魈の胸元へ突っ込んだ。道中、降り注ぐ紅い刃物を武器として集め、巳魈の胸元へと突き出す───。
狙いは完璧。巳魈の肉体を捉える───そう確信した瞬間。
ガギィィィィィィン!!!
凍りつくような硬質な金属音が境内に響き渡り、僕の腕に強烈な反動が跳ね返ってきた。
巳魈の肉体に届く直前、地中から、あるいは彼女の影から、僕の攻撃を完全に阻むようにして「それ」が割り込んできたのだ。
紅暗い椛の葉が激しく舞い散る、おあきさんにとっての思い出の象徴が。
鋭く、凍てつく程の視線が、目をガン開きにして僕を見据える。
っ!ふふ…はは!そうか…!
僕の目の前に現れたのは───僕の刃をその強固な爪でガチリと防ぎ止めた、一頭の「狛犬」の姿だった。
コメント
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つがさん、第12話「心の赴くままに」拝読しました🕊️ 痛みを“生の実感”として味わう主人公の感覚にゾクゾクしました……!イルカのエコーロケーションで死角を補いながらギリギリの攻防を楽しむスタイル、独特でめちゃくちゃ引き込まれます。最後の狛犬の割り込みには「そう来たか!」と声が出ました。続きが気になります……!