そして今、僕は厨房で忙しくフライパンを振っている。
「ニト! カルボナーラよろしくね!」
「俺はドラゴン肉のガーリックソテーだな。」
「こっち……ホットサンド。」
「コーヒーおかわり。」
「わ、わたしは──わたしもホットサンドでお願いします!」
冒険者を続けることが出来ずに途方に暮れていた僕は、かつてケンが手切金として持たせてくれた金で小さな食堂を始めた。
僕のユニークスキルによって僕自身の料理と経営の熟練度はカンストしていて、小さな食堂は今や塔攻略に沸き立つこの世界最大の都市で1番大きなレストランとなっている。
従業員達もランダムとはいえ何かしらの熟練度をカンストさせた優秀なメンバーに恵まれた。
塔攻略の凱旋パレードもそこそこに、このレストランに突然やってきたみんな。
フウは僕の姿を見るなり、
「ニトー! 会いたかったよぉ! ゴメンね! あの時は酷いこといったよね? ゴメンねぇぇぇ!」
と抱きついて泣き散らしてしまっていた。
「ひさびさにフウのゴメンねゴメンねを聞いたな!」
「ああ、俺たちの実力不足でニトを危険に晒してしまうのを歯痒く思ってたのを、全部自分のせいだとか言っていたからな」
「私にもう少し器用さがあれば、というか範囲回復ばかりの私でなければ効率よく出来てただけなのに、フウの心労にしかならなかった私が1番ダメダメだったわ」
「まあ、それもエンの加入でコツを教えてもらってどうにかなったんだから、いいだろ」
「わ、わたしもいきなりフウさんからニトさんを追放するのを手伝ってくれなんて頼まれて戸惑いましたけど……あれだけ冒険者に向いてないステータスの料理人さんをパーティから外して安全なところに残したいフウさんの気持ちは分かりましたから。フウさんは本当に優しい人ですよね」
「その割になかなか酷い言い草だったよね」
「ま、マリアさん! それはフウさんに、新人に酷いこと言われたらトドメになるからって、なんか酷い事言ってよって頼まれたからで……あわわ……」
ずいぶんと今更な暴露話だけど、僕を抜いて何も困らないでそのまま攻略しきったみんなが今更に僕をどうにかする事なんてない。そこには悪意なんてない、きっと純粋な本音の暴露。
いや、そこから察するに最初から悪意なんてなかったんだ。もし無理矢理どこかに悪意があったと定義するなら、僕に役立たずを追放する血も涙もない幼馴染と印象づけようとした点だろうか。
いや、なにも悪意の在り処を彼ら彼女らにだけに限定するべきではない。思ったではないか。ざまぁをしたいと。
記憶を遡って掘り起こしてみれば瞭然。自分は弱くて使えないバッファーだけど、陰ではこんな恩恵を振り撒いてやってるんだ、と。それでもいつか捨てられるその時まで黙っていて、いざ捨てた時に困ればいいんだと、泣きついてきたときにこっちから願い下げてやると。
自分で自分がまともには役に立たないのを理解しているからこそ、いずれ来る追放劇を予感してそんな妄想に取り憑かれていた。
そうなるとあの追放劇の記憶も少し違って想起される。
悪意に満ちていたのは、僕だった。彼らの言葉の全てにフィルターをかけていなかっただろうか?
リーダーだからとは言え凄く言いにくそうな申し訳なさそうな顔で告げるケン。
僕とは目を合わせることも出来ずに、話に参加することを避けつつ、それでも美味しかったと言ってくれたマリア。
予想通りの悪い雰囲気に腕組みしたまま下を向いて何かを堪えていたガイ。
エンは初めてのメンバーに戸惑いながらも、なんだか詰め込んだセリフを長々と言って、このおどおどした性格から出るとは思えない自信家のような事を言っていた。
そして朝の早くから迎えに出て、協力を頼んだエンを連れてきたフウは、これまで聞いたことのない口の悪さで、それでもどこかぎこちなく、僕を悪し様に言う口は少し震えていたのではないか?
あの時フウはこう言ったはずだ。
──ニトをパーティに入れてることの有り難みなんて一生分かんないよ。あ、この瞬間抜けてくれる有り難みはもうずっと感謝してもいいかも!
そう、ずっと感謝してくれる、抜けたことを。それは死の危険から遠ざけることに成功したことに感謝、ともとれる。
幼馴染に雑用させなくていい、料理は自分たちでどうにかする、斥候は攻守とも安心できるケンに学ばせたから。
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