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成田屋の店員が、総出で櫻子を見送っている隙に、金原とハリソンは、売り場となっているホールの隣にある、居る部屋のドアを閉めた。
テーブルを寄せ、ドアが開かないようにしようと、ハリソンが人払いしたがるが、何もそこまでと、金原は眉を潜める。
どうやら、ここは貴賓室のような場所で、特別な客が来店すると通す部屋なのだろう。壁には、花柄の壁紙が貼られ、金縁の額に入った西洋画が何枚も飾られている。
「成田屋は、お得意様でもあるんだ」
ハリソンが、壁に飾られている西洋画を眺めながら言った。定期的に絵画を売り付けているようだった。
二人は、猫足の白いテーブルをはさむように、これまた、猫足の赤いベルベットが張られた椅子へ腰かける。
「しかし、趣味がいいんだか、悪いんだか」
金原の言うように、西洋の居城でも再現しているのかと思うほど、部屋は、ゴテゴテと飾り立てられていた。
こんな部屋で落ち着いて品物を選べるはすがない。逃げた店主の趣味の悪さが、成田屋を傾ける事に繋がったのだろうか。そんなことを思いつつ、金原は本題に入った。
「ハリソン、柳原の娘、珠子だな?」
「高井子爵に見初められてるね」
「本当か……?」
虎の人力車に揺られ、日本橋まで後を着けていった事を、ハリソンは金原に報告した。
「……店の前に、高井子爵が……」
「そう、そして、珠子さんですね?なーんて、あの薄い、七三の髪を撫でながら、相変わらず気取ってたよ」
つまり……、と、金原は、ふっと、鼻で笑う。
「珠子の相手は、高井子爵ということか。母親は、勿体ぶって名前をあかさなかったが……」
今度は、金原が、勝代と珠子と、この店でかち合い、どこかの子爵と珠子の縁組みが決まりそうだとドレスを作りに来ていた事をハリソンへ説明した。
「おお、なんということ。珠子には、地獄の新婚生活が待っているということ、いや、何日持つんだろう?というか、子爵って、これで、何人目?」
「……地獄の新婚生活か、そりゃー面白い。が……」
「ああ、キヨシ、何の悪巧みだい?君が頬杖ついたら、ろくなことにはならない!」
ハリソンが言うように頬杖をつき、金原は考えこんでいた。
「……高井子爵家は、裏に回れば火の車だ。子爵の女遊びに金が流れているからな。そして、母上が、昔かたぎの人間。それは厳しい。俺も、子爵と酒の席で一緒になった時、遊び呆けてと、怒鳴りこまれて一緒にかれこれ絞られた。そんな、姑がいるんだ、珠子が、もつわけがない」
「あー!キヨシ!私も同意!母上は、絵画にけちつけて、値切ろうとしたよ、そこへ子爵が現れて、大盤振る舞いになった、ではなく、その勢いを、母上が、怒鳴りつけ、私まで、こんな絵を持ってきたからだとかなんとか、もう、話が食い違って、ひどい目にあった。帰り際に、屋敷の執事が、平謝りで、使用人も、直ぐ首にされてしまう。当然、嫁いで来た奥方達は、子爵の女癖の悪さと、キツイ母上に泣かされた挙げ句、離縁されると、漏らしていたなぁ」
「そうか……しかしだな……」
珠子が、虐げられて、苦労するのは構わない。櫻子への行いがある。自業自得というものだろう。ただ、堪えていれば、外では子爵夫人として、結局、ちやほやされてしまう。
「……それでは、あれの仇は、取れない」
金原は、更に考え込んだ。
「いやいやいや、キヨシ!なぜそこまで。ああ、もしかしなくても!彼女にゾッコンというわけか!」
「ああ……そうだ……」
「ウソ!認めるのかい!」
ハリソンがあげた驚きの声に、金原は、はっとして、自分の言った事を理解する。
「い、いや、違う、そうではなく、ため息というか、そうだな、いい考えがあると、そうゆう意味合いであって……」
自分は、そんなつもりではなかったと、ハリソンに説明する金原だったが、語れば語るほど、誤解が誤解を呼んで行く。
だんだん、金原自身も、櫻子への思いだったのか、ひらめいた悪巧みへの感嘆だったのか、わからなくなる。脳裏に、洋服の生地でお玉へ着物を仕立てたいと自分の意見をしっかりと言った櫻子の姿が過った。
いつも直ぐに俯く櫻子が、自身の考えを述べた事へ、皆の前では嫌みな事を言っていた金原だったが、実のところ、驚きと同時に、嬉しくも感じていたのだ。
そんな、自分を圧し殺すような振る舞いしかできなかったのは、柳原の家のせいで、勝代と珠子のせいでもある。
だからこそ……。
「珠子を、子爵夫人になどさせるか!」
心の叫びとばかりに、声を発する金原を見て、ハリソンは、目を細めた。
「キヨシ、良い妻を娶ったな」
言って、ハリソンは、身をのりだすと、金原の頭を撫でた。
「なっ!お、お前!」
直ぐにハリソンの手を振り払った金原は、むすりとして、睨み付ける。
「子供じゃねえーぞ!」
「まあまあ、いいじゃないの。誉めてあげたんだよ?」
「うるさいぞ!珠子は、なんとかなる。あとは、勝代の方をどうするか……だ」
苦々しそうに、顔を歪める金原へハリソンは、懐を探りながら、灰皿とマッチが欲しいと、呑気に言った。