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時は回帰前、王国歴733年11月1日
結婚して一ヶ月後には高齢の国王陛下から王位を譲り受けたオスカー。アベラルド王家が彼の治世で呆気なく終わると誰が予想できただろう。
夫に愛され、幸せな結婚生活。
その先にあったのは愛する夫と罵声を浴びせられながら首を切られる最期の日だった。
人が人を処刑する為に作った処刑道具ギロチン。私の長かった自慢の銀髪は、無惨にも切り落とされていた。
既に断頭台の前にいて罪状を読み上げられている夫オスカーを見つめる。オスカーはずっと処刑を待機する私だけを見つめていた。
垂直の木材の上にセットされた鈍い色をした刃から、罪人の絶命の叫びが聞こえてくるようだ。
ずっと思いを寄せていた人と結婚できた日がふと脳裏に蘇る。あの時の私は有頂天で自分が世界一幸福な女だと信じて疑わなかった。政略結婚だが私とオスカーは八年前婚約した時からずっと仲睦まじいカップルだった。
十歳の時にオスカーの婚約者になった私は彼の為になる女になるように育てられた。厳しい妃教育も愛する彼の為と思えば苦ではなかった。
王国を統べる天命を持ったオスカー。艶やかな金髪に切れ長で憂いを帯びたアメジストの瞳。その美しい瞳にいつも映っているのは幸せそうな私だった。
「何か言い残すことはあるか?」
革命の指導者である弱冠十七歳の平民ユリウス。赤い髪が真っ赤な夕陽に照らされていつもより赤い。まるで太陽に金色に輝く瞳、人々は彼に希望を見出したのだろう。
「シェリル、何度生まれ変わっても僕は君を愛してる」
「⋯⋯オスカー!」
私の叫びと共に、オスカーの首が切り落とされる。
伏せたまつ毛の長さに愛し合い繋がったまま彼が寝入ってしまった夜を思い出す。私は愛する彼を抱きしめながら夜を明かした。
オスカーは十分、国に尽くしていた。彼がどうして国民から罵られているのだろう。
「罪人を裁く」という行為は、人々に神になったような高揚感を与える。
貧しい国民を顧みず財を尽くした事が彼の罪?
私の見てきた彼と国民から見えた彼は全く違ったらしい。
私が断罪される順番が来るとギャラリーはより熱狂した。
真っ赤な夕陽に照らされ、鈍い光を放つ刃がこの国終わりと始まりを告げる。私の命の終わりが民の明日の希望になるのだ
『贅沢王妃に鉄槌を!』
『パンを食べられなければ、マカロンを食べろだとふざけるなー』
『国民の苦しみを知れ! 俺たちから搾取するだけ搾取する悪魔が!』
悪魔だの、悪女だの罵られる私。
私の生活は贅沢だったのだろうか。
それは全体の九割を占める平民の生活との比較で?
私は王家の財政が厳しい中、権威を落とさぬよう努めていた。きっと視野が狭かった。
王妃になる資質が足りてなかったのだ。
私はただ王室で生き延びるのに、愛するオスカーの気を引き続けるのに必死だった。
今思えば、自分の事ばかり。特権階級に生まれた以上、富を享受するのと引き換えに民に心を渡すべきだった。
ふらついて思わず、執行官の足を踏んでしまう。
「ご、ごめんなさい。わざとじゃないの」
執行官は無表情で無反応だった。
「何か言い残すことはあるか?」
革命の英雄ユリウスが私に無表情で尋ねる。
「跡形もなく消えてなくなりたいです。それで、皆が幸せになるのなら」
私の言葉にユリウスは苦笑いを浮かべた。
私はそのまま処刑された。
♢♢♢
夢なのか分からない不思議な状況。
腰までの銀髪が重く感じる。
「シェリル? なんで泣いて⋯⋯」
戸惑ったような顔をしているのは私の父ディオン・ヘッドリー。
月の光を閉じ込めたような銀髪にルビー色の瞳はヘッドリー侯爵家の特徴だ。
見渡すとそこはアルベルト王室の庭園。花の世話をする人間もいないのか枯れた花がそのままになっていた。秋風が冷たくて身震いする。まるで、私の魂が未練がましく過去を彷徨っているようだ。
「泣いてなんていませんわ。私に泣く資格なんてありません」
私は思わず自分の泣き顔を隠すように父に抱き付いた。
驚いたように少しピクッとした彼はされるがままになっている。
彼も革命により有力貴族として断罪された。私たちの贅沢とやらが、国民を怒らせたらしい。その怒りの矛先は現政権の王家や貴族の親類縁者までに向かい、罪もない五歳の弟まで拘束された。そのような残酷な事が罷り通るくらいの憎悪が、国民の間に膨れ上がっていたとは思わなかった。
無知であった事は責任ある立場にあった私にとって最大の罪だ。
「シェリル、大丈夫か? オスカー王子殿下と何かあったのか?」
心配そうに声を掛けてくる父に、私は口角を上げ笑顔を作り顔を上げた。
「私とオスカーの心配ですか? 私たちは何度生まれ変わっても愛し合うくらい硬い絆で結ばれてますわ」
「なら、良いんだ。お前が泣くなんて、てっきりオスカー王子殿下と喧嘩でもしたのかと思ったよ」
私は自分の頬に触れてみた。ひんやりと冷たい頬に流れる熱い湿った感触。
(私、生きてる! お父様も生きてる!)
「お父様、今日は何日ですか?」
「王国歴730年11月1日だ。来月はオスカー王子殿下の誕生日だな。いくら仲がよくても、自分をプレゼントしたりしたらいけないぞ。貴族令嬢たるもの、そういった事は結婚してからだ」
「当然です。こんな誰が聞いているか分からない場所で恥ずかしい事を言わないでください」
顔から火が出そうになりながら、私は父に抗議した。父がこんな事を言うのは、昨年のオスカーの誕生日に私が彼に口付けを贈ったのを知っているからだ。今の私は十六歳、オスカーと結婚するのが二年後、十九歳で処刑されるまでまだ時間がある。私がオスカーにできる最大のプレゼンントは命だ。三年後に処刑される最悪な運命を私が回避してみせる。
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