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今日は朝から来客があるからと、カイルは私を残して一人で何処かへ行ってしまった。なので、日の当たる場所で私は惰眠を貪ろうと考えた。
でも、しばらくするとそれもすぐに飽きてしまった。
ならばと私は、神殿の中なら好きに移動しても怒られない事だし、彼を探そうと思い立った。結婚式を数日前に挙げて私達は“番”になったのだ。その私を彼が邪険にする筈は無い。何をしようが嫌われない確信があった。来客中であろうが彼は私を抱き上げて膝を貸してくれるはず。そこでならまた寝るのも悪くないかもしれない。
何処に居るんだろう?客の対応なら、やっぱり応接間かな?
私でも開けられる特別仕様の部屋のドアを開けて廊下へ出る。ホールや宝物庫など、誰かと行きそうな場所を、思い当たる限り回ってみたが見付ける事が出来ない。
玄関ホールかな?もう別れの挨拶でもして、送り出している所なのかもしれない。そう思った私は、逸る気持ちのまま駆けて行った。
——あれ?居ないや。 予想が外れた。玄関ホール内を見渡しても誰も居なかったのだ。でも、普段は閉まっている巨大なドアが開いている。庭の一部がそこから見えて、その更に奥にはとても高い塀と森に出る事が出来る大きな門が見通せた。
(珍しい、どうして開いてるんだろう?)
私は不思議に思い、ドアから外へ出てみた。カイルも、見送りの為に外へ少し出ているのかもしれないと思ったのだ。
一人で初めて外に出た。いつも庭にはカイルとしか出ないので、少しドキドキする。 キョロキョロと周囲を見渡しながら、門へと近づく。その先に行く気は無かったのだが、側で見上げるくらいはいいだろう。
門に近づいて行くにつれ、頰に当たる空気が冷たくなっていく事に気が付いた。気温は高い筈なのに、吐き出す息が少し白くなる。
『…… あら?意外にも向こうから来たわぁ』
知らない声が不意に聞こえ、声のした方へ顔を向ける。 この冷たい冷気も、同じ方向から流れてきているみたいだ。
『外に出るなんてね。案外馬鹿なのね』
ゴージャスな女が塀の上に座っているのが見えた。深紫色をした髪に、瞳がギョロッとしていて蛇みたいだ。ニヤつく口元から見える舌も蛇っぽくて、彼女が神子である事がわかった。
夜会にでも行けそうな派手な赤いドレスに身を包み、宝石などの装飾品が全身にテンコ盛りで重そうだ。胸元もギリギリまで寄せて上げてとしてあり、デカイ胸がより大きさを主張していて正直煩い。コルセットで締め上げたと思われる腰は異常に細くて、いっそのこと折れてしまえと思った。彼女は明らかに、カイルが嫌うタイプだった。
(この人が今日の来客者なのだろうか?だとしたら、今日のカイルは災難だったな。これは私が慰めてあげないと)
私は元来た道を戻り、神殿に帰ろうと考えた。こんなよくわからない神子の相手を私がする必要なんか無いはずだ。
『ねぇ、私を中に入れてくれない?カイルにしたいお話があるの。とっても大事なお話なのよ。もちろん貴女にも関わる事よ』
(カイルが入れてくれなかったのに、私が招くと思うの?)
そう考え、訝しげな顔を彼女に向ける。
『彼ったらね、全然話を聞いてくれないの。プレゼントを持って来たのに失礼だと思わない?』
まぁ確かに。
『絶対に気にいる品を持って来たのよ。これで皆が幸せになれる、素敵な品よ』
何だそれは。胡散臭い。 でも…… 正直ちょっと気になった。
(相手はカイルと同じく神子なのだし、ここの世界は魔物以外は平和的な人ばかりだ。あまり警戒しなくてもいいの…… かも?)
そんな事を少し考えたら、彼女の口元が醜く弧を描いた。
『——ありがとう!許可を出してくれて!これでもう入れるわ!』
そう言った途端、ド派手なドレスで動き難いだろうに、構わず塀から飛び降りて彼女が庭の中へと入って来た。その姿に反射的に驚き、慌てて神殿に逃げる。
『待って!貴女にも用があるって言ったじゃない!』
ドレスを持ち上げて、赤いドレス女がピンヒールなのに全速力で走って来る。ダダダダッ!と、擬音まで背負っていそうな勢いだ。
(ひぃぃっ!怖い!キモい!怖い!)
何だコイツ、目が見開いてる!
恐怖心で焦りながら、涙目の私は玄関ホールへと急ぎ、中へ入った。此処まで来たら結界もあるから大丈夫だ。そう思ったのに、後ろから伸びてきた鞭が私の体を絡め取り、勢いよく外へ引っ張り出されてしまった。
『あはははは!捕まえたわ!捕まえたわ!』
高笑いする姿が魔物みたいだと思った。こんな奴、神子なんかじゃ無い!
『ニャァァァァァッ!』
叫び声を上げて私はもがいた。でも鞭は取れなくて、彼女の手の中へアッサリ収まってしまう。
鞭を地面に投げ捨てると、彼女は両手で私を掴み、顔を近ずけてきた。甘ったるい臭いがして反吐が出そうだ。