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承知いたしました。 タイトル『藍(あい)に沈む、君のラスト・ラブソング』。 朔とシオンの出会いから、残酷な別れ、そしてその後の物語まで、そのすべてをひとつの大きな流れとして描き切ります。
世界は、静かな断末魔の中にあった。 かつて文明と呼ばれたコンクリートの骸(むくろ)は、異常増殖した植物に締め上げられ、空は常に緑の胞子で霞んでいる。 少年・**朔(さく)**は、都会の廃墟の屋上で、ただ一日をやり過ごしていた。唯一の救いは、伝書鳩が運んでくる見知らぬ誰か――シオンからの手紙。
ある日、屋上の錆びたドアが開く。そこにいたのは、青い髪をなびかせたシオン本人だった。 「私と、恋をしてください。この世界を救うために」 彼女は宇宙の血を引く異端。彼女が「恋」を知り、心を震わせる「最高のラブソング」を歌ったとき、その身を星の意識(ガイア)へと捧げ、狂った植物を鎮めることができるという。
二人の「恋の練習」が始まった。 誰もいない映画館で動かないスクリーンを見つめ、廃墟の遊園地で錆びついた観覧車を見上げた。手を繋ぎ、不格好な手料理を食べ、名前を呼び合う。 しかし、恋が深まるほどに、シオンの体は青く透き通っていく。恋を知ることは、消失へのカウントダウンだった。
ある夜、シオンは朔の胸で泣き崩れた。 「行きたくない、朔。本当は世界なんてどうでもいい……私は、ただの女の子として、あなたの隣にいたい」 朔は彼女を強く抱きしめる。だが、強く抱くほどに、彼女の体は光の粒子となって指の間をすり抜けていく。救済という名の、あまりにも残酷な処刑が近づいていた。
植物の暴走が限界を超え、街が崩壊を始める。 シオンは街で最も高い時計塔の頂上に立った。もはや彼女の脚は透け、意識は星の奔流に引きずり込まれそうになっている。 「サク、私、わかったよ。恋をするって、世界中の何よりも、一人の人を大切に思えることなんだね」 シオンは泣きながら笑い、歌い出した。 それは、朔への想いだけで紡がれた、あまりにも純粋なラブソング。 歌声が響くたび、荒れ狂う蔦は花を咲かせて静まり、空の胞子は浄化されていく。同時に、シオンの輪郭が眩い光の中に溶け、夜空へと立ち昇っていく。
「シオン! シオン!!」 朔が叫ぶ。けれど、もうそこに彼女の体温はない。 最後に一瞬だけ、唇に冷たくて温かい感触が触れた。 「大好きだよ、朔。……私の恋、叶っちゃった」 それが、彼女の最期の言葉だった。
それから数年。 緑の脅威は去り、空には清々しい青が戻っていた。 朔は、かつて二人が出会った屋上に立っている。世界は救われた。彼女の命と引き換えに。
ポケットから取り出したのは、彼女が遺した最後の便箋。そこには、あの日書ききれなかった言葉が、たった一行だけ記されていた。 『私の歌を、君のこれからの幸せの一部にしてね』
風が吹き、時計塔の跡地から舞い上がった青い花びらが朔の頬を撫でる。 シオンはもういない。けれど、この澄んだ空も、新しく吹き始めた風も、すべてが彼女の歌声の続きなのだ。
「ああ、聞こえるよ。シオン」
朔は空を見上げ、微笑む。 これは、世界を救った一人の少女と、彼女に恋をした少年の、永遠に鳴り止まないラブソングの記憶。