テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

チャイムが鳴っても、席を立てなかった。背中にまだ笑い声の余韻が張り付いている。

鞄を握る指がじっとりと湿っていく。


「なぁ、遥」


出口を塞ぐように、体育のときに俺を突いた男子が立っていた。

その後ろには数人。目が笑っているけど、口元は歪んでいる。


「さっきの、マジでウケたわ。……ほら、続きやろうぜ」


机を叩かれ、身体がびくりと揺れる。

笑い声が重なり、視界の端でドアが閉まった。


「逃げんなよ。別に殴ったりしねーから」


わざとらしく優しい声。

でも、その奥にあるのは、昼間の体育館と同じ、逃げ場のない匂い。


「ほら、こっち」


肩を押され、足が勝手に動く。

胸の奥で、昼間のあの震えがまだ残っていて、それを気づかれるのが怖いのに、消えてくれなかった。



窓の外から聞こえるのは、部活の掛け声と、ボールの跳ねる音。

俺は黒板の前に立たされて、背後に数人の足音を感じていた。


「ほら、動くなよ。抵抗したらもっと面倒になるだけだから」


低い声が耳元に近づく。

次の瞬間、腰のあたりに冷たい感触が触れた。

押し込まれる感覚に、背中がびくりと跳ねる。


「あ……っ」


自分の声に、自分で驚いた。

喉を押さえても、息が震えて止まらない。


「ほら、立ってるだけでいいんだよ。簡単だろ?」


背中を軽く叩かれ、廊下の窓際まで押し出される。

窓の外には、まだ部活帰りの生徒たちが見える。

見られてるわけじゃないのに、全身が露出してるみたいな感覚が広がる。


下腹の奥が、じりじりと脈打つ。

そのたびに、膝が勝手に揺れる。

必死に呼吸を整えようとしても、「っ……く」とかすかな音が漏れた。


「顔真っ赤。なあ、これで廊下歩ける?」


笑い声が、背中に突き刺さる。


足を一歩踏み出すたびに、奥から微かな波がせり上がる。

ただ歩くだけなのに、心臓と呼吸が合わなくなる。

どこかで誰かがこちらを見ている気がして、目線を上げられない。


廊下の端に着くころには、もう息が熱くて、喉が渇いていた。

その渇きは水じゃ埋まらない。

ただ、ここに立っていることが、拷問の続きみたいに長く感じられた。



廊下から教室に戻されると、机の上にはいつの間にかいくつかの物が並んでいた。

体育倉庫から持ってきたらしい縄、ガムテープ、木の棒……どれも日常的に使う物なのに、

この空間に置かれただけで異様に見えた。


「今日は特別サービスだな」


笑い声が、机の上の道具より冷たく響く。


まず、手首を縄で緩く縛られた。きつくないのに、逆らえない感覚だけが妙に強い。

足首も同じようにされ、机の角に背中を押し付けられる。

膝を少し開かされた瞬間、下腹の奥がまたざわりと反応して、背筋が勝手に震えた。


「ほら、これ。ちゃんと持ってきたんだぞ」


誰かが机の上から細長い金属を手に取り、俺の視界から消える。

直後、下のほうでカチリと音がして、鈍い冷たさが押し寄せた。

腰の奥がきゅっと引きつる。

息を止めたつもりなのに、「……っあ」と声が漏れる。


「反応いいなあ。もっと見せろよ」


視界の端でスマホが持ち上がるのが見えた。

レンズがこちらを向いた瞬間、全身から血の気が引く。


「やめ……」と言いかけたが、喉が乾いて声にならなかった。

代わりに、木の棒が肩口を小突いた。

痛みより、笑い声とシャッター音が重なって耳に焼き付く。


その後も、ガムテープが頬や口の端に貼られたり剥がされたりするたび、皮膚の奥がひりつく。

笑いながらそれを繰り返す彼らの目には、もう俺を“人”として見ている光がなかった。


動けないまま、視線だけが天井に張り付く。

何も考えないように、何も感じないようにと必死で意識を遠ざけても、

下腹の奥の異物感と、笑い声の記憶だけは離れなかった。


無名の灯 番外編

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

47

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚