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笑い声とシャッター音が続くうちに、俺はもう目を閉じていた。見なければ何も起きてないふりができる──そう思ってた。
けど、耳は閉じられない。
「ほら、送っとけよ」
「もうグループに上げた」
「既読つくの早っ、全員見てんじゃん」
その会話が、針みたいに皮膚を刺す。
俺の顔、声、あの反応が、今この瞬間、知らないやつらの手の中にある。
吐き気が込み上げたが、縄で縛られた手じゃ、腹を押さえることもできない。
「これさ、保存してまた今度使おうぜ」
「体育のときも面白かったしな」
笑い声に混じって、メッセージの通知音が次々に鳴る。
その音がまるで“俺の存在証明”みたいで、耳の奥から消えてくれない。
俺がいくら否定しても、誰も信じない。
それどころか、この映像があれば、何を言っても「やっぱそういうやつ」で終わる。
これから毎日、クラス中の視線がその映像と一緒に俺を見る。
……もう、黙ってる以外の選択肢なんてない。
縄を解かれたときには、足に力が入らなくなっていて、立ち上がることさえできなかった。
机に手をついても、指が震えて支えにならない。
笑いながら出て行く背中だけが、やけに明るく見えた。
教室に一人残っても、自由になった気はしなかった。
机の上にはガムテープの切れ端と、俺の体温が残っている金属の冷たさが、
幻みたいにそこにある気がして、触れられなかった。