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#ハッピーエンド
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「ねえ、大輔? どうなると思う? あの二人」
僕と明里は体育倉庫の前で腰を下ろし、少しずつ陽が落ちていく空を見上げながら、期待と不安が含まれた言葉を交わしていた。
倉庫の中にいる、大木と光星さんのことを思いながら。
「どうだろうね? でも、少なくとも光星さんは大木のことが好きなわけじゃん? だから大丈夫だと思うよ?」
「でもこの前、私が光莉ちゃんを紹介した時、ああいうことになっちゃったわけじゃん? だから心配なんだよねえ」
明里がそんな心境になるのも当然だ。『いきなり押し倒す気かよ!』と思わされる愚行に出たわけだから。
でも――
「なんとなくなんだけど、きっと大丈夫だと思う。さすがに大木も同じ失敗は繰り返さないだろうし。それにあの二人、お似合いなんじゃないかなって思えて。本当になんとなーくなんだけどね」
大木が暴走しやすい性格なのは確かだ。だけど、思い出す。部活の休憩中に楽しそうに光星さんと話していた時の大木の顔を。僕や明里に見せるものとは全く違ったんだ。アイツの笑顔が。光星さんに抱いていた気持ちが漏れ出た、本物の笑顔だった。
「『なんとなーく』とかいい加減だなあー」
「いい加減なんかじゃないよ。理由は言わないけど。今はね」
いつもいつも、自分のことを『モテないモテない』と言っていたけど、あれはカモフラージュだったのではないかと。明里に女子を紹介してもらったのも。今の僕はそう感じている。
きっと、アイツは片想いをしていたんだ。光星さんに。
でも、動けなかった。言葉で伝えることができなかった。振られることを恐れて。結局のところ、臆病なんだアイツは。だから隠すしかなかった。押し殺すしかなかった。
本当の気持ちを。
僕と同様に。
「あー、いいなあ。もしあの二人が付き合うことになったらくんずほぐれつの毎日を送るわけじゃん? すぐにではないだろうけど。羨ましいったらありゃしないよ。というわけで、大輔。今度さ、私の部屋で一緒にチョメチョメしよう?」
「何故そうなる……」
否定として聞こえるように言葉を返したけど、でも、本音は違う。チョメチョメがどうとかは置いておいて。僕はずっと一緒にいたい。手を繋ぎながら一緒に歩きたい。抱き締めたい。口づけをしたい。
幼馴染であり、想い人でもある、すぐ隣にいる天童明里と。
* * *
「あ! 大輔大輔!!」
体育倉庫の扉が開けられる気配を感じ、腰を下ろしていた明里は興奮気味に立ち上がった。
そして、二人の姿が目の中に飛び込んできた。それを見て、僕は目を細めた。
「おめでとう、大木。光星さん」
二人とも気恥ずかしさからか、お互いを見ることができないでいた。真っ赤になった顔を。
それだけじゃない。
二人は手を繋いでいたんだ。
「あらいやだー。二人とも初々しい。私まで恥ずかしくなっちゃうじゃないのー。もう一度倉庫に戻ってチョメチョメしてくればー?」
「お前な……それをしようとしたからこの前大木を怒ったくせに何言ってんだよ。あと、その体をクネクネさせる癖どうにかした方がいいよ? 似合わないから」
「……なんですって」
「い、いえ。なんでもございません……」
条件反射でつい腹部をガードしてしまった。だって明里、鬼みたいな形相をしてるんだもん。これからまた市民体育館まで行って練習するつもりだから蹴られるわけにはいかない。
「まあいいわ。それでそれで! 姫星ちゃん! どうだったの!!」
「ど、どうだったって、その……」
頬を紅色に染めた光星さんはやっぱりモジモジとし始めた。本当にこの子、女の子らしいし純粋だし、愛嬌もあるし、すっごく可愛いな。大木が好きになるのも頷ける。いや、好きだったのかどうか大木に確認したわけではないけど。
というか、明里さあ。見れば分かるし本当は気付いてるくせに。わざわざ訊かなくてもいいじゃんか。
「俺の口から説明するとだな。ま、まあ、つ、付き合うことになってな」
「うっそー! 本当に!! やったじゃん大木くん!!」
「あ、ありがとうよ」
「おー。なんか大木くんからお礼を言われたの初めてかも」
「初めてじゃねえし! それに俺だってちゃんと礼節をわきまえてるわ!」
「ごめんごめん。でも、それに比べて大輔ときたら。勇気のないヘタレで嫌になっちゃうよ。しかも変態だし」
「うるさい。ヘタレとかいうな。傷つくじゃんか。あと、その流した噂、ちゃんと皆んなに説明して誤解を解いておいてね」
「え? なんで? 事実じゃん」
海の底よりも深ーい溜め息をついた僕である。こりゃ誤解を解く気も訂正する気も全くないな。
「姫星ちゃんも。本当に良かったね。おめでとう」
「あ、ありがと……」
赤らめた顔を隠すように、俯き加減の光星さんだった。でも、バレバレだよ。さっきからずっと口元が緩んでるんだもん。いやいや、本当に分かりやすい。
「と、いうわけで大木くん。ウリャッ!!」
「お、大木くん! 大丈夫!?」
明里は笑顔のまま、大木のお尻に一発蹴りを繰り出した。いつもよりもずっと軽めにだけど。はて?
というか、光星さんが可哀想だから蹴るなよ……。もうマネージャーと選手としての関係だけではなく、彼氏彼女の関係に変わったんだから。すごく心配してるじゃん。
「痛ってえー! おい、嫁! どうして蹴るんだよ! 今回は何もしてないだろうが!!」
「うん、何もしてない。してないけど、先を越されて悔しかったからとりあえず蹴っておいた。あ。姫星ちゃん。もし何かあったら私に相談してね。また大木くんのことを蹴り飛ばしてあげるから。あははっ!」
確信。仮に、光星さんは大木とのことで何か問題が発生したとしても、明里に相談することはないだろう。
【続く】
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