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「久しぶりです、アオイさん」
「……え!? えっ!? ええええ!?」
思わず声が裏返る。
目の前の――いや、今までずっと俺を助けてくれていた“黒騎士”の正体が、まさかリンだったなんて!
「ど、どうして……!? なんで……!? え、え、今まで……ずっと……?」
「話すと長くなるので、手短に言います」
リン――いや、エスは少しだけ申し訳なさそうに微笑んだ。
「俺はあの後、いろいろあって『女神の翼』の用心棒になりました。……すべては、アオイさんを守るためです」
「僕を……?」
ぽつりと漏れた俺の問いに、彼は頷いた。
「はい。俺はあの時――神に見捨てられて、死ぬはずだったんです」
彼の声は穏やかだった。でも、言葉の奥には深い闇と覚悟があった。
「……でも、それを変えてくれたのは――あなたです」
「どういうこと……? 神に見捨てられて……って……?」
混乱の中、言葉がうまくつながらない。
だけどリンはそれ以上、過去を語らなかった。
「だから……今ここで、その恩を返します」
そう言って、リンは一歩引き――
静かに、再び頭の装備を被った。
その姿は、再び“黒騎士エス”へと戻っていた。
「俺は、すべて知っている」
エスの声は静かだった。
「あなたが“勇者”であることも……そして『女神』であることも」
「…………」
俺は言葉を返せなかった。
「だから――あなたは、ここで死ぬべきじゃない。
あなたには“やるべきこと”があるはずだ」
“やるべきこと”。
たしかに……もし、俺が“勇者”で、『女神』だとするなら――
これから先、リュウトも、ヒロユキもいない世界で、やらなきゃいけないことは山ほどある。
けど――
「……そっか。それじゃあ――」
俺は、そっとリンの手を握った。
そのまま、
「なっ――!?」
彼の手から、真紅の魔皮紙を奪い取った。
そして――迷わず、魔力を流す。
「何をやっているッ!?」
紙はドロッと溶けて、俺の手に染み込んでいく。
体が軽くなる。
一気に、内側から“力”がみなぎってくる――!
「リン……君の言ってることは、わかるよ」
俺は、力強く彼を見据える。
「でも――俺は、“今ここで頑張らなきゃ、明日絶対に後悔する”んだ!」
「っ……!」
「僕は、馬鹿だからさ」
思わず笑ってしまう。
「何も考えずに突っ走って、何も考えずに生きてるって、そう思ってる人も多いと思うよ」
「……!」
「でもね――“馬鹿でいるため”に、俺は、全力で今日を生きてるんだよ!」
「明日、何も考えずにのほほんと笑って生きるために!」
「……だが!アオイさんは――!」
「そうだよ!俺は、力も才能もない!」
「……!」
「だけど――馬鹿だから、ここで1人だけ逃げるなんて絶対できない!!」
「それに!」
「……?」
「この魔皮紙、君が使って逃げるって選択もあったんだよね? でも、そうしなかった!」
「…………」
「君には、君なりの理由があるんでしょ? だったら――!」
すでに、触手は目前まで迫っていた。
俺は、ぼうっとしているリンの腰の剣を一本引き抜き――
不恰好な構えのまま、振り抜く!
「――せぇいっ!!」
刃が、触手を切り裂いた。
「理由はわからないけど……!」
俺はそのまま剣を構えて、叫ぶ。
「俺は戦う!! “勇者”として――最後まで!!」
「――よく言った」
「……え?」
どこかから聞こえた声に、思わず周囲を見回す。
けれどそこには誰もいない。
――自らの命を省みず、敵に立ち向かう姿勢。
「合格だ」
「エス……? いや、違う……」
この声は……この気配は……
「まさか……っ」
――今、お前にかけていたリミッターを外すときが来たようだ。
空間が震える。
まるで世界そのものが――何かを“承認”しているような感覚。
【唱えよ、その魔法を】
その声は、どこか懐かしくて、けれど圧倒的で――
まるで世界の理そのものが語りかけてくるようだった。
【そして。女神の作り出した“その魔物”を――倒せ】
(女神が……生み出した……魔物?)
問いかける暇はなかった。
でも、今は――それよりも。
俺の頭の中に、言葉がある。
初めてなのに、何故か知っている魔法。
力が、熱が、光が、俺の中心に集まっていく。
俺は、静かに――けれど確かに、言葉を紡いだ。
「――【武器召喚】」