TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

その日鉄道会社と打ち合わせを終えた岳大は、井上と別れて新宿に向かった。

時刻は既に夕暮れ時になっていた。

岳大はこれから友人と食事に行く約束をしていた。


これから会う友人は、夏樹涼平という湘南在住のサーファーで建築事務所で設計士をやっている男だ。

岳大と涼平は、十年以上前に山神山荘で出会って以来長い間友人関係を続けている。


涼平は岳大よりも六歳年下で、最近結婚したばかりだ。

岳大は以前涼平の妻、その当時はまだ恋人だったが、その彼女に頼まれてフリースクールで写真の授業を行った。

岳大は時間の許す限りボランティア活動にも力を入れていた。


涼平はその後その彼女と結婚した。そして結婚後すぐに建築コンペで大賞を受賞した。

今日はそのお祝いをしようと、ちょうど仕事で東京に来ていた涼平を岳大が誘ったのだ。


新宿駅に降り立った岳大は、涼平との待ち合わせ場所へまっすぐ向かった。

待ち合わせ場所には既に涼平が来ていた。


「涼平!」

「岳大さん、お久しぶりです!」

「久しぶりだなぁ。そうそう大賞受賞おめでとう! これで涼平も有名建築士の仲間入りだな」

「いやーまだまだですよー、でもありがとうございます。うちのは今つわりがひどくすみません、折角お誘いいただいたのに…

岳大さんにはくれぐれもよろしくと言っていました」

「そうか! いよいよ涼平も来年には父親か」


挨拶を終えると、二人は食事をする店へ移動した。

予約している店は、西新宿の高層ビルの最上階にある和食の店だ。


二人は店に入り席へ着くと、とりあえず乾杯した。


「じゃあ涼平、大賞受賞おめでとう!」

「ありがとうございます」


グラスがぶつかるカチンという音の後、二人は生ビールをグビグビと飲んだ。

そこで岳大が聞いた。


「大賞を受賞したら一気に知名度が上がって大変なんじゃないか?」

「はい、仕事の依頼が急激に増えました。ただあれもこれも全部受けていると、仕事が雑になっちゃうんである程度選んでやっ

ています」

「ひとつひとつ丁寧に仕事をするところは昔から変わってないんだな。まあそこが涼平のいい所なんだけれどな」


岳大は微笑んで言うと、美しく盛り付けられた和食に箸をつけ始めた。


「立山はどうでしたか? 確か鉄道会社のポスターの続編も作るんですよね?」

「うん、天気に恵まれていい写真が撮れたよ。鉄道会社には今日打ち合わせに行って写真にOKが出た。あとは細かい事を詰め

て行けばいい感じかな」

「順調ですね。『peak hunt5』の出店の話もこの前ちらっとしていたじゃないですか? 店舗設計なら是非我が社へ!」


涼平はちゃっかりセールスをする。

すると岳大は、


「もちろん、店舗の建築は涼平の会社に頼もうと思ってる」

「あざーっす!」


涼平は嬉しそうに笑った。


それから二人は食事と酒を楽しみながら、積もる話に花が咲いた。

そして程よく酔いが回ったところで涼平が聞いた。


「岳大さんは結婚しないんですか? 昔は恋愛や結婚なんてする暇がないといつも言ってたけれどあれは今でも変わらずです

か?」

「いや、恋愛はあの後いくつかしたんだよ。でも縁がなかったんだろうな」


岳大はそう言って日本酒を口に運ぶ。


「で、今は? 気になる人とかいないんですか?」

「そうだなぁ、まあ気になるっていうか、そういうのは久しぶりだったから自分でもちょっと戸惑ってる感じかなぁ…」


岳大の言葉を聞き、涼平は飲みかけの酒を吹きこぼしそうになった。

それから慌てて聞く。


「えっ? それって気になる人が出来たっていう事ですか?」

「うん、まあ気になってはいるんだよね」


涼平はかなり驚いていた。


「どっどんな女ひとなんですか?」

「うん、今回立山に行った時に知り合ったんだ。その女性はシングルマザーなんだよ」

「で? それで? 交際は申し込んだんですか?」


涼平が前のめりになって聞くと、


「相手は子供さんがいるんだよ。子供を守りながら必死で生きているって感じなんだ。だから、そんな浮ついた事はやっぱり言

えないよね。それにまだ知り合ったばかりだし」


岳大は少し照れたように言った。


「でもそれじゃあもう会えないかもしれないじゃないですか。遠距離なんですよね?」

「それは心配ない。うちのスタッフに入って貰ったから。彼女はアパレル関係にいたんだよ。だから今度のブランドリニューア

ルを手伝ってもらおうと思ってる」

「なんだ、ちゃんとしっかり繋げてるじゃないですか?」

「うん、やっぱり繋げておかないとって無意識に思ったんだろうね。気付いたら彼女をスカウトしてたよ。今までの自分だった

らこんな突発的な事は絶対しないはずなのに…」


岳大は少し困惑したように言う。


「そういうのが『マジ』って事なんですよ。いやー岳大さんのそんな思いを聞けて、なんか俺嬉しいです。その気持ち大事にし

て下さいよ。こんな機会はもう一生訪れないかもしれないんですから」


涼平は感慨深げに言うと、嬉しそうな笑顔で日本酒をグイッと飲み干した。


その時岳大は高層階からの煌びやかな夜景を見つめていた。

そしてこの景色を優羽と流星に見せてやりたい…そんな風に思っていた。


水面に落ちた星屑

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

221

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚