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その日の相談室は、いつもより重たい空気が流れていた。 椅子に座った少年は、手のひらをじっと見つめながら、ぽつりと言葉を落とす。
「……生きてる意味が、わからないんだ」
声はかすれていた。机の上に置かれた指先が小さく震えている。
「朝起きても、何もしたくない。学校に行っても、つまらないし……家に帰っても、居場所がない。……なんで俺、生きてるんだろって」
遥は黙ってその言葉を聞いた。
――胸の奥に突き刺さる感覚。
まるで自分が何度も心の中で繰り返してきた言葉を、目の前で他人が代弁しているようだった。
彼はふっと笑った。笑いながら、目はどこにも焦点を合わせていなかった。
「友達もいないし、得意なこともないし……生きてても意味なんかないよなって。消えても、誰も困らない」
遥は机に肘をつき、しばらく天井を見上げた。
「……意味なんか、ないんじゃないかな」
少年が驚いた顔で顔を上げる。遥はゆっくり続けた。
「俺も毎日そう思ってる。家でも学校でも地獄みたいでさ……生きてる意味なんか、正直わかんない」
沈黙が流れる。少年の表情には戸惑いと、ほんの少しの安堵が混じっていた。
「……じゃあ、なんで生きてるの」
遥は自分の指先を見つめながら、小さな声で答えた。
「死ぬ勇気もないし……でも、生きてたら、意味が勝手に見つかるかもしれないって思うから」
「勝手に……?」
「うん。探しても見つからないけど、誰かに呼ばれたり、何かが起きたり……ほんの一瞬、“あ、生きててよかった”って思える瞬間が来るかもしれない。……俺は、それを待ってる」
少年は黙ったまま、遥を見つめていた。
遥は視線を避けずに続ける。
「意味は、自分で作るんじゃなくて、あとから勝手についてくるものなんだと思う。……だから、生きてるだけで十分」
少年の目が潤み、机の上に落ちた涙が小さな染みを作った。
「……ほんの一瞬でも、そんなのがあるなら、もう少し……生きてみようかな」
遥は小さく頷いた。
「それでいい。意味なんかなくても、息してるだけで十分だよ」
相談室の窓から夕陽が差し込む。
光は二人の影を長く伸ばし、沈黙をやわらかく包み込んだ。
――生きる意味なんて、すぐには見つからない。けれど「生きてみよう」と思ったその瞬間こそが、意味になるのかもしれない。