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相談者の少年が席を立ったあと、遥は机に頬をのせて、静かに息を吐いた。
――生きてる意味、なんて思ったこと、ほとんどなかった。
でも、ふと思い出すのは、昨日の放課後のことだった。
街の片隅で、誰も気に留めないゴミを拾っている小さな子がいた。
何気なく手伝っただけで、「ありがとう」と笑ってくれた瞬間、胸の奥にほんの小さな温かさが流れた。
家では母に叱られ、兄には蹴られ、学校では無視される日々。
誰かに必要とされることなんて、ほとんどなかった。
でも、その一瞬だけ、確かに自分が誰かの役に立った気がした。
――意味なんかなくても、こんな瞬間があるなら、生きててよかった、って思えるかもしれない。
遥は小さく笑った。
笑うとき、目の奥に微かな光が差す。
誰にも気づかれないかもしれないけれど、自分の中でだけ、価値のある瞬間が確かに存在する。
相談室の窓から夕陽が差し込み、机の上に影を落とす。
遥はゆっくりと息を吐いた。
――今日も、明日も、意味が見えなくても、生きてみる価値はある。
小さな出来事が、少しずつ積み重なって、自分を支えてくれるかもしれない。
そんな考えが胸に浮かんだ瞬間、遥の中の小さな闇が、ほんの少しだけ揺らいだ。
――生きてる意味は、遠くにあるものじゃない。目の前の些細な温かさの中に、そっと存在しているのかもしれない。
静かな相談室の中で、遥はしばらくその光を見つめ続けた。
そして、もう一度、確かに息をしている自分を感じた。