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10話 今月の紙芝居ニュース
夜
焚き火のぱちぱちした音だけが
ふっくらの丸い背中に響いていた
ふっくらは短い脚を前に投げ出し
腹をふよんと揺らしながら
紙芝居を待っている
ふっくら
「今月は平和だったよね?
ね? 琶?」
琶が枠の前に立つ
大きな体
長い首
重なった鱗
畳まれた翼が静かに揺れ
影がふっくらをまるく包む
琶
「……平和だ」
ふっくら
「なんか言い方が信用できないんだよね……」
琶が一枚目をめくる
そこには――
――何も描かれていない。
線が一本もない
ただの紙
ふっくら
「……え?
間違えて“未使用の紙”持ってきた?」
琶
「ニュースだ」
ふっくら
「ニュース!?
何も書いてないよ!?
何も起きてないってこと!?」
琶
「……そういう月もある」
ふっくら
「あるけど!!
紙のなんにもなさが逆にこわいよ!!」
琶は次の紙をめくる
二枚目も
やはり何も描かれていない
ふっくら
「ねぇ……
ほんとに何もなかった……?」
琶
「“描かれていない”だけだ」
ふっくら
「こわい言い方しないで!?
描かれてないってなに!?
起きてるの!? 起きてないの!?!」
琶は無言で次の紙をめくる
三枚目
やっぱりなにもない
ふっくら
「琶!?
さすがに手抜きじゃない!?!」
琶
「手抜きではない。
“記録者”が今月は書かなかった」
ふっくら
「逆にこわい!!!」
琶は読者のほうへ
ちらりと視線を送る
「……読者も書かなくていい」
ふっくら
「読者に圧をかけないで!!!」
最後の紙をめくる
そこにも何も描かれていない
――はずだった
ふっくらは一瞬
紙の奥
紙芝居の枠の向こう側に
琶の影が立っているのが見えた
ふっくら
「えっ……!?
ねぇ琶……向こうにも琶いなかった……?」
琶
「気のせいだ」
(絶対気のせいではない)
ふっくら
「ぜったい気のせいじゃないよね!?
だってこっちにもいるよね!?
二人いないよね!?!?」
琶は淡々と紙芝居を閉じる
「今月は平和だ」
ふっくら
「平和の定義どうなってるの!?」
琶はふっくらの丸い頭をつついた
「……記録がない月ほど
面白い」
ふっくら
「どこが!?
どこが面白いの!?
読者も困惑してるよ!!」
琶は
焚き火の火をちらりと見て
小さくつぶやく
「……描かれないほうが
“本物”は見えやすい」
ふっくら
「なにそのダークな締め方ぁ!!
読者を置いていかないで!!
わたしも置いていかないで!!!」
紙芝居は終わったが
紙の向こうにいた“影”だけは
しばらく消えなかった