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蓮司の相談室2

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蓮司の相談室2

29 - 第29話 存在を証明するのが苦しい

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2025年10月28日

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夕方の光がゆっくりと沈み、教室の壁がオレンジに染まっていく。

蓮司は椅子を後ろへ少し傾け、天井をぼんやり見上げていた。


コン、コン──

控えめなノック。


「入れ」


声だけで答えると、ドアが静かに開く。

振り返ると、細身の男子が一歩ずつ慎重に進んできた。

手の指先を、ぎゅっと握りしめながら。


「相談、してもいい……?」


「勝手にすれば」


蓮司は肩をすくめて、空いた椅子を顎で示す。

少年は座るなり、視線を机に落とした。


「……俺さ。存在してるのが、苦しいんだ」


蓮司は眉ひとつ動かさない。

せかさず、急かさず。

空気が落ち着くのを待つように。


言葉を探していた少年が、吐き出すように続ける。


「誰かに“認められてる”って思えないと……不安になる。

俺がここにいる意味、無くなる気がしてさ。

みんなに必要とされてるわけじゃないし、

役に立てないなら……消えたほうがマシって」


蓮司は机の端に手を置き、指先でとん、とんとリズムを刻む。


「消えるって、楽そうだと思うわけ?」


少年の肩が、小さく揺れた。


「……楽かどうかは、わかんない。でも、

このまま『何者でもない』まま生きていくほうが……怖い」


声が震える。

唇が噛みしめられる。


「何かを持ってないと、この場所にいちゃダメな気がするんだ。

特別でもない、努力も続かない、褒められることもない。

そんな自分を許せなくて……

『お前はここにいていい』って言ってほしくて、

でも誰も言ってくれなくて……」


蓮司は視線を少し外に向けた。

校庭の照明が灯り、夜の始まりを告げている。


「誰が最初にそんなルール作ったんだろうな」


少年は顔を上げる。

蓮司の言葉の意味を測りかねているように。


蓮司は続けた。


「存在証明ってのは、誰かに認められないと成立しねぇものなのか?」


少年は言い淀む。


「……だって、ひとりじゃ……」


「ひとりじゃ“生きてる実感”が湧かねぇ。

そこまでは分かる」


蓮司は軽く息を吐いた。


「でもな。

認められるために無理して、すり減って、

それでも手に入らなかったら、どうすんだ」


少年は答えられない。


「……俺、何もないんだよ」


その一言は、投げ出すようで、助けを求めるようでもあった。


蓮司は、ほんの一瞬だけ目を細めた。


「“何か”があるから存在できるわけじゃない。

存在してるから、“何か”が積み上がるんだろ」


少年の喉がかすかに揺れた。

反論も、否定もできずに。


蓮司は少し笑う。


「ほら。息、してんじゃん」


少年は目を見開く。


「お前が今ここに来て、俺と言葉を交わしてる。

それだけで、お前は“いる”んだよ」


「でも俺は……誰の役にも……」


「役目がねぇと存在できないのかよ。

それ、ただの“条件付きの命”じゃん」


静かな声だが、突き刺さる。


「何者でもなくていい。

少なくとも、今はな」


少年は、机の縁を強くつかむ。


蓮司は背もたれに身体を預け、ゆっくりと視線を向けた。


「焦んな。

証明なんて、後から勝手についてくる」


沈黙。

でも、痛みだけじゃない沈黙だった。


「今日は、ちゃんとここに来たろ。

それだけで十分だ」


蓮司は立ち上がり、窓を開けた。

夜風が静かに入り込み、教室の空気が少し軽くなる。


「存在を証明しなくていい場所、ここにひとつ増えたってだけの話」


少年の胸が、わずかに上下する。

さっきより、息が通っている。


蓮司は片手をひらりと振って、


「帰れ。暗くなる前にな」


少年は小さくうなずき、立ち上がる。

出口に向かいながら、ふと振り返った。


「……また来ても、いい?」


蓮司は視線を外したまま答えた。


「勝手にしろ」


夕陽は消え、夜が降りる。

でも少年の足取りは、さっきよりほんの少しだけ、軽かった。

それだけで、十分だった。


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